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夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
第五章 現世を取り巻く光と影

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第四十四話 出立

 掲示板の更新はスニルが行っており、クエストの達成状況を反映するまで多少の時間差がある。そのため今すぐに宝玉の無事を確認するには、自らの目で確かめるしか方法はない。こうしている間にも誰かが宝玉を目指して登頂しているかもしれないと思うと、四天獣の少女達にとっては何だか落ち着かないようだ。


 僕達は宝玉の調査へ向かう準備を進めていた。《転送の札》の手持ちがないため、自らの足で現地へ赴かなければならない。そのためどうしても単独行動が発生してしまい、火急の際の対応策を考える必要があった。とは言え神凪の他に四天獣を脅かす者はいないため、気を付けるべき脅威は一名に絞られている。


 話し合いの末、神凪が現れた場合の合図として上空に魔術を放つことに決めた。

 四天獣の魔力を以てすれば、遠くからでもその爆威を視認できるという。

 仲間の危機を救うために、その救援信号の発生源へと集結するのだ。


「……して、エイタとアイは誰に帯同するのじゃ?」


 四天獣はそれぞれの根城へ向かうが、空いている僕とアイは遊撃として支援が可能だ。ライハの言葉を聞き、セツナが真っ先に手を挙げている。


「エイタ、私についてきてよ。私は皆と違って速くは移動できないの」


 昨日の夜はセツナの寝つきが早く、あまり話せなかった。ちょうど僕も彼女に聞きたいことがあり、改めて助太刀に来てくれたお礼も言いたかったところだ。


「いいだろう。よろしく、セツナ」

「決まりね。大魔王様、私を護ってね」


 セツナがグータッチを求めてきたので、僕はそれに応じた。


「それでは、アイちゃんはわたくしと共に来ていただけませんか?」


 ホムラがアイに対し、笑顔で手を差し伸べていた。

 アイはホムラの手を取り、満面の笑顔で首肯した。


「ホムラ、よろしくね!」

「ふふっ、よろしくお願いします」


 フウカとライハも手を挙げていたが、組の結成を見てすごすごと手を下ろしている。互いに顔を見合わせ、残念そうに心情を共感し合っている。


 僕がアイを心配そうに見ていると、ホムラが気を遣って近付いてきた。


「エイタ様、ご安心ください。アイちゃんはわたくしが必ずお護りします。それに、アイちゃんはもう護られるだけの存在ではないはずですよ」

「……そうだな。ホムラ、アイを頼む」

「はい、お任せください!」


 くだんの少女に視線を移すと、アイもこちらを見ていたようでピタリと目が合った。


「わたしは大丈夫。エイタも気を付けてね」

「ああ、アイも気を付けて……」


 久方振りの別行動となるので、僕はアイが心配で落ち着かない。ホムラの実力を疑うわけではないが、アイが自分の手を離れることに憂惧(ゆうぐ)の念を(ぬぐ)い切れなかった。


「アイ、霊峰ソルベルクは暑いぞ。辛くなったらこまめに休憩をするか、ホムラの背に乗せてもらうといい。飛来する火球も溶岩も、ホムラと一緒なら問題にはならない。火口の上空は飛ばないようにホムラには忠告しておく。それから、もし噴火した時には――」


 僕がくどくどと霊峰の攻略方法をアイに伝えていると、ホムラが痺れを切らして言葉を被せてきた。


「あの……エイタ様、アイちゃんにはわたくしがついていますので大丈夫ですよ」


「エイタは過保護じゃのう。アイはお主が思っておるより、ずっと頼もしいぞ」


 ライハも呆れて口を挟んできた。


「いや、俺も信頼していないわけじゃない。ちょっと心配で……」

「やれやれじゃ……」


 ひとまず、これからの行動指針は決まった。僕達は四手に分かれて、各々が霊峰の山巓さんてんを目指す。合流場所は、エンマルク南部にポツンと建てられた風車の前だ。


「山頂で宝玉を狙う人間に遭遇するかもしれないが、絶対に人を殺さないでくれ。そして皆、首を狙われる立場にある。重々気を付けてくれ」

「わかりました。皆様もお気を付けて」


 そうして僕達は仲間と別れ、各自がそれぞれの根城へと向かった。アジールからだと、本来は通れない霊峰の裏道を登ることとなる。飛行能力を持つホムラとライハ、下級魔術《空天駆》により空を駆けるフウカは苦労なく進めることだろう。


 心配なのは僕とセツナのペアだ。ロルヴィスの奥地のように、越えられない崖が現れた時の対処を考えなければならない。


 ライハとホムラは颯爽さっそうと空を飛び、フウカは草原を逸足いっそくの脚で疾走した。解散して間もなく、少女達の姿は見えなくなっていった。

 その脅威の速度に圧倒され、僕とセツナは目を丸くしていた。


「皆、凄い速さだな……羨ましい……」

「ごめんなさいね、私は飛べなくて……。さぁ行きましょうか。きっと徒歩も悪くないわよ。一つ一つの障害を一緒に越えていきましょう」

「そうだな。領主のセツナと共に霊峰イスカルドの奥地に挑めるなんて、登山家としては有り難い限りだ。道中はよろしく頼む!」


 そうして僕はセツナと共に、霊峰イスカルドへ向けて歩き出した。

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