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夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
第四章 偽りの罪状

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第二十五話 凶行

 食事を続けていると、周囲からの視線はどんどん濃くなっているように感じていた。浴びせられる視線は疑念から敵意へと、良からぬ意識へと変貌を遂げていく。


 そうしてその敵意が殺意にまで膨れ上がった時、背後から何者かがこちらのテーブルを目掛けて刃物を振り下ろした。まさかそんなはずはないと僕は楽観的に考えていたが、NPCによる暴力行為が現実となってしまったのだ。


「お前……何の真似だ!」


 狙われたフウカは瞬時に振り返り、問題なく凶刃を籠手で防いでいる。


 刃物を振りかざした者は応えないが、その表情には確固たる意志が宿っているようだった。更に男は力を緩めることなく、フウカの籠手に刀身を押し込んでいく。


 痺れを切らせたフウカは風による斥力を発生させ、襲撃者を奥の壁まで吹き飛ばした。傷付けることないよう、あくまで距離を取るために力を抑えた微風である。


 その者は壁に叩き付けられながらも口唇に歯を食い込ませ、反抗の意識を弱める気はないようだ。するとフウカの抵抗を皮切りに周りで食事を取っていた者達も一斉に立ち上がり、全員がこちらへ武器の鋒鋩ほうぼうを向けた。出入口を塞がれ、あっという間に僕達は凶器を持った男達に取り囲まれてしまった。


「なんだ……こいつら……」


「お主ら、誰に剣を向けておるのじゃ。余が何者かわからんのか?」


 一体どういうことだろうか。受付のスニルまで銃を抜いている。何かゲームのイベントでも始まったのかと疑ったが、フィヨルディアに限ってそれは有り得ない。

 自我を持ったNPCがどうして斯様な凶行に及んでしまったのか、今後フィヨルディアで過ごすに当たって僕はその行動理論を突き止めなければならない。


 しかし考える間もなく、取り囲む集団が僕達に向かって一斉に吶喊とっかんした。

 敵意を向けられようとも、こちらから危害を加えるわけにはいかない。話し合いで解決できる事柄ならば穏便に事を為すべきだ。襲われる理由がわからないが、まずはこの状況を脱するために僕達は攻撃を防ぎつつ思考を巡らせた。


 彼我ひがの実力差は歴然としており、僕達が打ち負かされることはないだろう。アイもフウカから教わった体術を遺憾なく発揮し、襲撃者の攻撃を軽く往なしている。


 「余を怒らせたのう。もうよい……皆殺しじゃ」


 強烈な殺気を感じると同時に、パチパチと弾ける音が室内に響いていた。

 音源に目を向けると、黄金の巨龍が冒険者ギルドを建物ごと吹き飛ばす幻影が浮かび上がった。ライハの苛立ちの感情により、魔力が形となって漏れ出していたのだ。ライハが二刀を握り締め、殺意を持って襲撃者の男に斬り掛かろうとしている。


「待て! ライハ!」


 僕は間に入り、なんとかライハの斬撃を太刀で受け止めた。


「エイタ、なにゆえ邪魔立てをするのじゃ!」

「街で人を殺すつもりか!? お前はもう魔獣ではないだろう! 頭を冷やせ!」


 先ほどからの襲撃でわかったことがある。それは、フウカとライハが執拗しつように狙われているということだ。魔獣を狩る時のように、明確な殺意を持って――。


「エイタ! 掲示板を見て!」

「――――!」


 アイの声を聞いて掲示板に目を移すと、僕は目線の先にある光景に絶句した。

 なんと、クエストが更新されていたのだ。

 指定された魔獣の討伐や素材の蒐集しゅうしゅうなど、ずらずらと懐かしいクエスト名が並んでいる。魔獣が再び出現したことが既に知れ渡っていたようだ。

 そして、僕達が襲われた理由がようやく判明した。掲示板に目を通したことで、その真相をまざまざと突き付けられた。


《メインクエスト:魔獣の王・四天獣の討伐》。

・四天獣――閃龍せんりゅうライハ。生息地:霊峰トルエーノ。

・四天獣――颱虎たいこフウカ。生息地:霊峰ロルヴィス。

・四天獣――煌凰こうおうホムラ。生息地:霊峰ソルベルク。

・四天獣――幽亀ゆうきセツナ。生息地:霊峰イスカルド。


 ご丁寧に顔写真まで添えられ、別枠で大きくクエストの紹介がされていた。


「メインクエストが更新されている……どうして……?」


 街の住人の殺意に疑問の余地はない。フィヨルディアの設定である――街の平和を脅かす魔獣。その首魁しゅかいである四天獣が目の前にいるのだから。

 襲撃の理由がわかった以上、長居は無用だ。街の人々と戦うわけにはいかない。


「皆、退くぞ! 退路を確保しろ!」

「余に任せるがよい!」


 僕の呼び掛けに応じてライハが手を挙げると、落雷が発生してギルドの屋根を穿うがった。見上げると、ギルドの天井から空が見えるほどに大きな穴が開いている。


「この穴からだっする! 余に掴まるのじゃ!」

「――よし!」


 ライハが差し出した両手を僕とアイがそれぞれ握ると、発現させた翼を羽搏かせて勢いよく上昇した。風圧で襲撃者の動きを止めていたフウカは敵の沈黙を確認すると、天井を貫く穴へと跳躍してライハの背中に飛び乗った。


 そのまま三人でライハにしがみつき、空を飛んで街を離れた。

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