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夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
第三章 蘇りし聖域の番人

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第二十話 組合

 冒険者ギルド。ここは、フィヨルディアの中枢ちゅうすうを担う重要な施設である。


 中へ入ると、いかにも『ギルド』――といった内装が出迎える。什器のほとんどが木製で、武骨な雰囲気を醸し出している。覚えがなくとも既視感がある意匠いしょうには、他のゲームとデザイナーが同じなのかと疑いたくなるほどだ。


 受付台の背後にはカウンター席とテーブル席があり、朝っぱらから酒盛りをしている人が見える。ここはギルドの機能に加えて、飲食店と酒場を兼ねているのだ。


 壁面に貼られた掲示板を見ると、NPC同士で徒党を組んで複数のギルドが作られていた。クエストがないのに、ギルドを結成して何をするのだろうか。

 掲示板のクエスト一覧に目をやると、当然だが依頼はなかった。全てのクエストを終わらせたのは他でもなく、ゲームクリア者である僕自身なのだ。


 そして、クエスト欄の最上段。《メインクエスト:魔獣の王・四天獣の討伐》に斜線が引かれ、討伐者である僕の名前がでかでかと記載されている。

 見る度に僕は口元が緩み、これを眺めるために普段からギルドへ訪れていると言っても過言ではない。NPCが意志を持つようになって、僕のことを誰もが英雄だと認知してくれていることも自己肯定感の爆発に拍車を掛けている。

 たまに道行く人がお礼を言って、僕を褒め称えてくれることもある。そんな時でも謙遜けんそんをして、威張らないことが英雄たる振る舞い、つまりは様式美なのだ。


 掲示板の前で少女達に向き直り、僕は自慢するように手を広げた。


「ここは冒険者ギルド。ギルドの登録とクエストの受領、報告。スキルポイントの振り分けやアイテムの売買まで色々なことができるぞ。アイテムは他の店より割高だから気を付けること。情報の発信も行われているから、用がなくても来る価値はある。どうだ? 何だかわくわくするだろう?」

「へぇ、そうなの……」

「あっそ、ふーん……。人間って面倒なことが好きだよな」


 アイとフウカは爪をいじりながら素っ気なく返答した。


「……二人とも、あまり興味がなさそうだな。早くライハに会いたい気持ちはわかるが、ギルドなくしてフィヨルディアは成り立たないんだぞ」


 関心を示さない二人はさておき、まずは用事を済ませるために受付へ向かった。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


 受付台のカウンターに立つ男性が、こちらに気付いて丁寧に頭を下げている。


「おはよう、スニル。ここも賑やかになってきたな」

「エイタ君、よく来てくれましたね。最近は、朝から酒を飲む人が多くて大忙しですよ。これも、エイタ君のお陰で世界が平和となった証ですね」


 彼の名前はスニル。冒険者ギルドの受付を務めるNPCだ。壮年の男性で、中性的な容姿をしている。長い髪を背後で束ねて括り、縁のない眼鏡を掛けている。

 こうして会話ができるようになったのも、アイが意思を持ち始めてからである。


「スキルポイントを、この子に千ポイント譲渡する」


 僕はアイを指して言った。どのスキルを選んでも千ポイントが上限であり、これでアイは一つのスキルを極められる。


「千ポイントですね。かしこまりました。どのスキルにしますか?」


 スニルはアイに、スキル一覧を記した薄い冊子を手渡した。


 ――このゲームの仕様は、従来のRPGと何ら変わりはない。レベルが上がると腕力と魔力が強化され、一定のスキルポイントを得ることができる。そのポイントを選択したスキル項目に振り分けることで、術技を修得する仕組みだ。


 スキル項目は大きくわけて武術と魔術があり、そこから更に細分化されている。

 武術には剣、槍、弓、格闘など、古今東西の武具を対象とするスキルがあり、魔術には地水火風ちすいかふう、その他にも天地万物を象徴とする属性が存在している。

 その膨大なスキル項目の種類は実に百を超えているため、攻撃スタイルの好みに合わせて多様な選択が可能だ。

 ラズハの使用によって術技の発動を制限されている僕とは異なり、フィヨルディアの住人であるアイであればスキルの機能を十全に享受できるだろう。


 アイは冊子をじっくりと眺めている。時間をかけて読み込み、ページを捲るその表情は真剣そのものだ。

 しばらく熟考した様子を見せた後、アイは迷わずに言い放った。


「光魔術スキルに千ポイントでお願いします!」

「承知しました。スキルポイントを振り分けましたので、ご確認ください」

「ありがとう!」


 アイは嬉しそうに再び冊子を眺め、修得した術技の一覧を確認している。


 それにしても光属性とは、アイの意外な選択に僕は少し驚かされた。扱う魔獣がどこにもいないため、霊峰の探索を日課とする僕でさえ光の魔術の発動をこの目で見たことがないのだ。


「アイ、魔術の属性は光でよかったのか? もっと他にも使い勝手の良さそうなものがありそうだが……」


 僕の心配を払拭(ふっしょく)するかのように、アイは毅然(きぜん)として振り返った。その真っ直ぐな瞳に逡巡(しゅんじゅん)はみられない。照れ臭そうに微笑み、白い歯を見せつけている。


「光の魔術は凄いのよ? 攻撃の術だけでなく、防御や回復の術を修得できるの。霊峰に魔獣が現れた以上、自分の身は自分で護れるようになりたい。この光の力で、エイタとフウちゃんの助けになれたら嬉しいな!」


 僕は、アイの返答に感心して言葉を失っていた。

 アイはスキルブックを熟読し、攻撃的なスキルを持つ僕とフウカのバックアップができるよう実戦を考えてスキルを選択したのだ。軽んじていたわけではないが、アイがそこまで高度な思考ができるとは正直驚かされた。


 気が付くとフウカが後ろからそっとアイを抱き締めている。ゴロゴロとのどを鳴らし、アイの肩に頬を擦り付けるその姿はまるで甘える家猫のようだ。シャーシャーと威嚇いかくしていた昨日とは、随分と態度が違っている。


「あたしもアイを護るからな。一緒に強くなろうぜ」

「ありがとう。わたし、頑張るからね!」

「アイ、術技を修得しても、すぐに実戦で使いこなせるわけじゃない。少しずつ試して練度を上げていこう。俺達がサポートをする」


 スキルポイントの譲渡が終わったので、後はアイに実戦経験を積ませるだけだ。


「スニル、ありがとう。また来るよ」

「またのお越しをお待ちしております。良い旅を」


 スニルに別れを告げ、僕達は冒険者ギルドを後にした。

 次の目的地は霊峰トルエーノ。東の方角にそびえる荒天こうてんの地である。


 山頂へ向けて《転送の札》を使ってみたが、札は効力を発揮しなかった。つまり、間違いなく閃龍ライハは山頂にいるということである。

《転送の札》を使用するために無駄に僕の手を握らされたことで、フウカから怒りの拳を受けたことは言うまでもない。


 今更ながら、僕は昨日の失態に気が付いていた。エンマルクは四天獣の支配域でないため、霊峰に魔王がいようともふもとまでは《転送の札》を使用できるのだ。

 霊峰を自力で登る必要があることに変わりはないが、昨日は無駄に広いエンマルクをショートカットしておくべきだったといえるだろう。


 同じてつを踏まぬよう再び札の使用を提案したがフウカは取り合わず、アイの手を引いて僕から逃げるようにエンマルクへと駆け出していた。

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