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コスプレサミット;始まり2

 「あら、本当におめでたいことですね。けれどなんとなく、ガンダムのコスプレの必要性の理由が少し曖昧になったみたい。」

 「ふん、俺の話し方が悪かったのかも知れん。では次だ。もう一人の、これは女の方なんだがね、彼女は九州は熊本の出だ。今じゃあ女版肥後もっこすだが、鬼も十八番茶も出花てなもんで、女子高生の頃は恋多き乙女だった―――いや、念のために言っておくが、さっきのは容姿のことを言ったんじゃない、性格のことだよ。何しろセイラのコスプレをやろうってんだからな。ちゃんと形にできる素材だよ。そこは母さんと同様で。」

 「そりゃ、ほうでないと困るわ、見苦しいセイラが出てきたらあたしらがいっくら頑張ってもしょんないで。」

 どうやらお母ちゃんはもう全くその気になっているらしい。

 「そう、そこは安心してくれ。眉目秀麗、スタイルの方も問題ない。流石にお肌の方は心もとないが、大量のドーランで何とかする、シャアもブライトも同様だ―――閑話休題。その彼女がうら若い乙女だった頃のことだよ。地元の高校の同級生に淡い恋心を抱いていた。いいね、熊本だぜ、抜けるような青空を背景に雄大な阿蘇山、その山麓に広がる町の様子を想像しながらその青春群像を思い浮かべてみてくれたまえ。彼らは何しろまだ若い、多分お互いに好き合っていたんだろう。が、そんなことなかなか口には出せない。ただクラスの男女複数人でいろいろな話題に花を咲かせる。そうした折に二人はそれぞれ相手の性格やら趣味やらを知って行くわけだ。そうした時の中で二人の想いは募って行くんだね。うん、絵に描いたような恋愛談だ―――ところがここで二人の社会・経済的背景の違いというものがあり、これもやはりある種ありがちな話ではある。それと言うのが、先ず彼氏の方なんだが、学業は優秀で普通なら大学へという流れだ、しかし家の経済状態が今一つで兄弟姉妹も多いときている。本人もどうしても進学したいという希望は持っていなかった。片や彼女の方だが、学校の成績は抜群だったから是非大学へということで、更に家は随分と裕福だ。何の問題もない。だから当然将来は進学で決まり、そんな塩梅さ。さて、高校三年生の春夏秋冬も例年の如く順番にバトンが渡されて行った。そしていよいよ進路を決める時期が来る。彼女は進学先を考え、彼は就職先を探す。結局彼氏の方は、地元ではなく遠く愛知県の自動車関連の会社へ入ることになった。何十年も前の話とは言え集団就職なんて時代ではなかったけどね、いろいろな条件を勘案しての決定だあね。このことを聞いた彼女の方も受験先を決める。名古屋市にある、某国立大学だ。彼女の親御さんとしては多分、福岡県の大学とかを期待していたんだろうが、娘の強い希望だから致し方ない。彼女は受験し当然のことながら合格し、お前の兄貴の先輩になったってわけだ。

 それにしても今の俺には当時の彼女の父親の気持ちがよく分かる。自慢の娘が福岡どころか大阪・京都も飛び越えて名古屋にまで行っちまったんだからな。どうせ遠くに行くんなら東京にでも、と思ったかも知れんが。まあそんなことはどうでもいい。兎に角こうして二人はこの愛知県で、一方は工場で働き一方は大学で勉学をすることになった。それからこの同郷の二人は異郷の地で付き合うようになったんだが、世の中上手くいかないものでな、当初は楽しいデートが続いたが暫くするとこの二人の間にも隙間風が吹き始める。なにしろ片や学生片や社会人、生活とか環境の違い、その中でそれぞれの考え方だって段々変わって来るだろう。デートの頻度は次第に減少し会う時間も短くなって行く。何よりも会話が途切れがちになる。断片的にかつての高校時代のことを話したりすることくらいだ。そんな時に交わされたのが当時の学校生活や級友達との共通の話題、そしてそれ、そこにガンダムが大きなウエイトを占めていたわけよ―――そうしてそのまま自然消滅、みたいなものかな。その後彼女は大学を卒業、こっちの会社に入りエンジニアとしてめきめきと頭角を現して行く。始めのうちはがむしゃらに働いていたが、やがて社内で気の合う男と知り合い結婚、子どもができたら退職してやろうかとも考えていたが、何故か子宝に恵まれずそのまま仕事を続け、今じゃあなかなかのポストに就いている。やはり元々優秀なんだね。彼女の旦那も同様、なかなか出世しているぜ。ちなみに彼女の元の彼氏な、これもなかなかの人物でね、仕事を十数年続けた後起業し、今では立派な社長さんだ。結婚して子どももおり人生順風満帆、ということで四方八方丸く収まりましたとさ、目出度し、目出度し。」

 お父ちゃんはトントンと指先で机を叩いた(講談師かよ)。そして笑顔でお姉ちゃんを見る。

 「‥‥‥そういうことでしたら、協力してもいいですよ。あたしだって人でなしじゃあないんですから。」

 こうして多少時間はかかったが、お父ちゃんはお姉ちゃんの篭絡にも成功した。お父ちゃんは“しめしめ”という態度をちらとも見せず、

 「おお、有難い。引き受けてもらえて何よりだ。ご苦労だが、後で兄貴が帰って来たらこのことを伝えておいてくれ。俺は部屋のパソコンで例の二人と連絡を付けて来るからな、よろしく。」

 お父ちゃんは、ラーメチャンタラギッチョンチョンデパイノパイノパイとか歌いながらさっさと部屋に引き上げる。お母ちゃんは、多分その“ガンダム”のアニソンであろうメロディーを口ずさみながら、用意してあった食事を温めるために台所へ。お姉ちゃんはパリコトパナナデフライフライフライなんて鼻歌交じりでやっぱり自分の部屋に。僕は一人取り残された。僕はさっきの話、了承した覚えはない。なのにどうやら僕もガンダムコスプレ軍団の一味にされてしまっているらしい。しかも被り物キャラとして―――ふざけている、実に怪しからんではないか。 

 

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