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シュミレ、トレジャーハンター、子は親の心くらいわかるもの(4)


「スイ。でも退かなくていいよな?」

「ああうん、アリアは確保しておいて。さて、ミセスハッピーサイドの皆様にはシュミレの話は響いたかな?」スイはエナを見て言う。


「私もサンナーラも、シュミレの言うことには同感。甘い世界じゃないよ。宝の噂なんて私だって数えきれないくらい聞いたことがあるけれど、そのうち嘘だったものは両手じゃ足りないし、先を越されていて無駄足だったケースも同じくらい。ありつけることなんて、片手で数えきれるくらい。私達は盗賊だから民間人やお店から盗んで売るとか食べ物もらうとかしているから生きていけているけれど、トレジャーハンターだっけ、ありつけた宝を売るだけで生計を立てるなんて……自殺行為だよ」

「そう……なんですか」


「そうなんです。ガニックに言ってもきっと同じことを言っただろうね。で、たぶんだけどあなた達、そのままそれでも続けようとしたら、どこかでうっかり盗賊になると思う。三人もいたらひとりはそこに至るんじゃないかな? 一回目にそれに成功してしまったら、二回目もやっちゃう。依存性だね。そしたら後は、自由なようでいてどんどん選択肢が狭まる日々の始まり。私達盗賊なんて、そんな情けないものなの」


「……でも」

「だよね。でも、って言いたいよね。まだ何も得てないのも悔しいもんね。じゃあこうしよう? この剣、私達は諦めてもいいよ」


「えっ?」

「お、おいおい、スイ? 急にどうしたんだ、お前らしくない」

 エナもシュミレも目を剥く。サンナーラも信じられないようなものを見る目だ。スイは若干の居心地の悪さを、咳払いで掻き消した。


「その代わり。交換条件として……剣を受け取ったら、トレジャーハンターなんて夢はもう諦めて、ギラの町だっけ、そこに帰りなさい。帰るって約束しなさい。それと、私達に会ったことも他言しないと約束しなさい。できないなら、ライルハントさんにも加勢してもらって、全力で死守するから。殺してでも、ギラを滅ぼしてでも剣を持ち帰るから」


「……優しい交渉の体で、余地のない選択肢を示すなんて。ひひ、わたくしもびっくりな性格の悪さですね」リンボが言った。「エナ、アリア。ここはひとつ剣を持って帰って、トレジャーハンターとかは諦めちゃいましょう」

「そんな……でも、……たしかに欲しいけど、夢を諦めるか宝を諦めるかだったら、わたしは」

「リンボ、どういう狙いの判断だ」シュミレの下でアリアが言う。「君のことだ、命が惜しいというだけの話じゃないんだろう」

「ええ、さすがアリア。……シュミレさん、アリアに説明したいので、解放してあげてくれませんか。アリアが余計なことをしようとしたら、わたくしが責任を取りますので」

「シュミレ。退いてあげて」

「……ほらよ」


 アリアは立ち上がると、リンボの傍に寄る。ミセスハッピーサイドは、ぬすっと少女隊がそうするように、ひそひそ話を始めた。三人以外の誰にも聞こえないような声量で。


「……放っておいていいのかよ、スイ。あたし達を出し抜こうとしてるんじゃねえのか」

「だとしたらそのときはそのときでしょ」スイはさらりと言った。「大丈夫だよ。こちらのほうが手は多いんだから」

「……ふたりともさあ」サンナーラは嘆息する。「もうちょっと加減してあげたら? 明らかに年下だよ」

「でもきっと、エナ達のほうが人として豊かだよ。加減なんてとんでもない」


 話し合いを終えたミセスハッピーサイドは、大した抵抗をすることなく、スイの交渉に応じた。もうトレジャーハンターとしての活動をせず、ギラの町に帰ること、ぬすっと少女隊について言いふらさないことを約束して、剣を受け取った。


 洞穴の入口で別れた。ギラの町のある、北西に向けて歩く背中を見送った。いつの間にか夕焼けの光が辺りに広がっていた。


「それにしても、やっぱり、意外だなあ」と、サンナーラ。「スイが、金目の物よりも会ったばかりの女の子の将来を優先するなんて」

「だって、あそこはああしないといくらなんでも私達の印象が悪くなるでしょ。そうしたら恨みでどこかに情報を流されるかもしれない。それは避けるべきだから」スイは淡々と答える。

「ああ、それはそうだね。剣は惜しいけれど、不安要素がそれで取り除けるのなら。でも、約束を守ってくれる保証はないんじゃないの?」

「そのときはそのときだよ。とにかくなるべく、いい方向に落ち着く可能性が高まるように考えただけだから」

「なるほどね」


「……それに、ガニックの馬鹿の影響で若い子の人生が歪んでいくところなんて見ていられないから――恵まれている人が率先してそれを手放そうとするのと同じくらい、見ていられない」


「そっちが本音かあ」

「あはは、本音と理由が違ったっていいでしょ」

 笑い合うふたりの隣で、シュミレはぐっと伸びをして、それから言った。

「疲れた。宿に帰ろうぜ」

 そうだね。



「それにしても、リンボちゃんの言うことが本当なら、すごいよね」

「ユプラ神ゆかりの場所にあるのだから、たしかに不自然ではないが……違ったらどうする?」

「そしたら、わたくし達の運が悪かったというだけの話でしょう。そしてわたくし達はここまで幸運でしたから、きっと今回もそうに違いありませんよ」

「そうだといいね。ギラの町のみんな、なんて言うかな。少なくとも、町長さんは褒めてくれるかもしれない」

「ああ、そうだなあ。宗教的には複雑だけれど、重要な証拠品であることは間違いがないのだから」

「当初の目的はどうあれ、これさえ持って帰れば、わたくし達にも意味があったと客観的にも思われるはずですよ」

 リンボは笑う。


「なんせ、遠い昔に世界を救った、伝説の宝剣を持って帰ったというのですから」




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