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シュミレ、トレジャーハンター、子は親の心くらいわかるもの(3)



「ん? 見ろ」ライルハントは言った。「外れかもしれない」

 ライルハント組が行き着いたのもまた、なんの文字も彫られていない、ただの岩壁だった。宝どころか鉱石も罠もない。


「となると、スイさん達が正解の道に行き着いたということでしょうかね」

「しばらく待っても、引き返そうとしても何も起こらない。もしかして、掘ってる途中で死んじゃったのかな」

「ふむ……とりあえず、戻るぞ」


「待って」

 と。

 ライルハントに背負われていたイヴが言う。ライルハントに降ろしてもらい、ぐっと伸びをしてから、イヴは岩壁に歩み寄った。そして、なんの変哲もない浅い窪みを掌でぐっと押した。


 重々しい地鳴りが響いた。岩壁はゆっくりと、入口の石板のように、地中に潜っていった。呆気にとられる三人を他所に、イヴは悠々とライルハントの後ろに戻る。やがて壁が下りきると、少し遠くに何やら部屋のようなものが見えた。


「すごい!」エナは叫ぶ。「イヴさんだっけ、すごいね! どうやってわかったの?」

「イヴはユプラ神に作られたから。子は親の心くらいわかるもの」

「え、それって……どういうことですか、ライルハントさん?」

「イヴは卵から出てきたんだ。その昔、ユプラ神に入れられたらしい」

「うぅん? 壮大ですねー。まあいいや、とにかくすごい子なんですねイヴさん。一応さん付けしておいてよかったです」


 ライルハント組が少し進むと、とても広々とした空間に出た。天井の隙間から外の光が射していて、杖の炎がなくとも視界不良にはならなさそうだった。苔むした地面を歩いていくうちに、ライルハント組は台座を見つけた。水のたまった狭く深い溝に囲まれていた。


 そして、その台座には――目の覚めるような美しい刃を持つ、一本のロングソードが飾られていた。

「わあ……綺麗」

「これは……ひひ、なるほど」

「他には……この部屋にはないようだな」ライルハントはそう言うと、エナとリンボより前に、剣の傍に近づく。「では、ここでスイ達を待とう。誰も触れてはならない」

「え、洞窟の外で合流すればいいんじゃあ」


「スイに言われたんだ。本当に山分けをしてくれるのかわからない。隙を見て持ち去られてしまうかもしれないから、スイ達がこちらにくるまでは触れさせないようにしてほしいと」

「え……なんだか、それ、信じられてないみたいでショックです」

「そうですねえ。わたくし達、そんなズルいことしそうに見えるんでしょうかね? ひっひっひっひ」


「ズルいことをしそうに見えるから、じゃねえよ」背後から、シュミレがそう言った。「生きてるやつはみんな、ズルいことをするんだ」


「わ……いつの間に!」とエナが飛びのく。

「あたしは足が速いからね、一足先に駆けこませてもらった。少ししたらスイ達も着くよ。……ふぅん、一本だけか。へし折るわけにもいかねえし、山分けは無理だな」

「そうですね……どうしましょうか」


「あたし達がいただく」シュミレは剣に向けて一歩、二歩と踏み出す。

「え――ちょっと!」エナは駆け寄り、シュミレの肩を掴む。「そんな、勝手に決めないでください!」


「馬鹿言え、あたしは盗賊だぞ? なんで盗賊から宝を譲ってもらう余地があると思うんだよ? 邪魔だ」シュミレは乱暴に振りほどく。よろけたエナを、リンボが支えた。「お前らさあ、向いてないぜ。こういうの」

「向いてないって、トレジャーハンターですか」


「おう。わかってねえんだもん。騙されたり利用されたり、出し抜かれたりダシにされたり、寝首をかかれたり身ぐるみを剥がれたり、朝まで手を繋いでいたやつに夜殺されたりするかもしれないって、わかってねえ。素性も知らねえどころか盗賊だってわかってるやつに、盗賊でもねえのに協力してもらおうなんて、甘すぎるんだよ。ひとまず、これはいただくぜ」


「待て!」

 と。

 遅れて到着したアリアが、シュミレに体当たりをした。その拍子に溝につまずいたシュミレを、スイとサンナーラが受け止めた。


「てめえ、何しやがる!」

「流れは理解できている。奪い合うのだろう? 俺が相手だ」

「上等だ!」


 シュミレは駆け出し、アリアに殴りかかった。太い腕に防がれると同時に、その健脚で腹部に蹴りを入れられた。咳込んだ隙を狙って拳を振り上げたアリアだが、背後から飛びついたスイに体重をかけられ、不発に終わる。そしてサンナーラはアリアの足の間に煙玉を落として視界を塞ぎ、その間に回復したシュミレがアリアの顎に向けてアッパーを叩き込んだ。


 眩む視界によろめいたアリアは、さらにスイに足を引っかけられて転んだ。シュミレはアリアが起き上がる前に身体に乗り、頬を思いっきりぶつ。


「やめて!」エナが叫ぶ。目じりに涙を浮かべながら。「寄ってたかって、卑怯です! せめて正々堂々と!」

「笑わすな」シュミレは言う。「こういうことなんだよ、盗賊と同じもん狙うってのは。棒立ちで泣いて歯ぎしりしたってどうにもならねえし、それしかしたくねえなら本当に向いてない世界なんだよ」

「……シュミレさん達は、ぬすっと少女隊は、わたし達の憧れだったのに」

「憧れてるのは女三人で旅をしてるって部分だろ? じゃあわざわざ宝探しなんてしなくても、三人で各地を旅して、貯金が尽きたら働いて路銀を貯めていけばよかっただろ。明日からそうしろよ」

「そ……それは」


「ははあ。さてはお前ら、働きたくなかったな? 平和な町で真っ当に働いてる大人達を見て、あんなつまんねえの嫌だな、旅を出て宝物を集めて自由に暮らそうって気概だったんだな? あのなあ、真っ当に生きないということは真っ当に生きることよりずっとずっとずっと不便で不自由なんだよ」


 エナは何も返せなかった。アリアもシュミレの言ったことについて考えているようだった――リンボは別のことを考えていたが、それはつまり、半ば諦めの姿勢に入っているということでもあった。

 それを見て、スイが手を叩く。

「はいはい。シュミレ、それくらいにして」



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