6.父の日
「ちちのひ?」
「ええ、日頃の感謝を込めてお父さんにありがとうを伝える日のことよ」
いつものようにクリス父様に連れられ、薬室へとやってきたソフィアはミシェルの仕事の手伝いをしていた。ミシェルの仕事がひと段落下ところで、もう少しでやってくる父の日の話題になった。
ソフィアは父の日というものがあることを初めて知ったが、ミシェルの説明を聞きそれがとても魅力的なものに思えた。大好きな父様にプレゼントをしてありがとうと伝える日、想像しただけでわくわくする。父様達ふたりならきっと喜んでくれるに違いない。
「ちちのひ!やりたい!ソフィアもふたりにプレゼントする!ありがとういう!」
「そうね!きっと2人とも喜ぶわ!私も手伝うから2人にサプライズしましょう!」
「うん!」
それから二人はクリス父様達に何を贈るかを相談した。色々と話し合った結果、今のソフィアが自分で用意できるもので、手作りしたものがいいだろうということになり、絵と手紙をプレゼントすることに決めた。
二人はまず、手紙に取り掛かった。ソフィアが書きたい文字をミシェルがお手本として書き、それを真似するようにソフィアは紙に一生懸命写していく。まだ文字を書きなれていないため、線がよれていて決して綺麗とはいえないが、文字一つ一つにソフィアの想いが込められていて見ていて微笑ましいものになっていた。
「いつも…」
「そうそう!ソフィアちゃん上手!…それで、ありがとうのあはこれ」
「あ」
「うん!いいかんじ!」
かなり時間がかかったが、何とかソフィアは自分で手紙を書きあげることができた。そんなソフィアをミシェルは興奮したように褒める。ソフィアは褒められて嬉しそうに笑った。
次に紙とクレヨンを準備し、ソフィアはお絵描きを始める。楽しそうに絵を描くソフィアを眺めながら、ミシェルはぽつりと呟いた。
「…クリス室長もミカエル副団長もとっても素敵なお父さんよね。いいなぁ、私、ソフィアちゃんが羨ましい」
ミシェルの言葉にソフィアは首を傾げた。ミシェルにも父親がいるはずなのに、自分の父親を羨ましいと言うミシェルがソフィアには不思議だった。
「…ミシェルおねぇさんもおとうさんいるでしょ?」
ソフィアの言葉にミシェルは少し気まずそうな顔をして言った。
「まぁ、いるんだけどいないようなもんというか」
「…?」
きょとんとするソフィアにまだ分からないかとミシェルは苦笑いした。
「うちはね、あまり家族の仲がよくないの。両親は親同士が決めた結婚で、しかたがなく結婚した感じで、仲がよくないし喧嘩ばっかりしてる。…私はね、それが嫌で王都まで出てきたの。兄も一人いるけど、そうそうに家出して今は隣国に住んでるし、疎遠なんだよね」
「ミシェルおねぇさん、さみしい?」
ソフィアがそう尋ねると、ミシェルは少し考えてから言った。
「…んー、さみしくないと言えば嘘になるかな。ソフィアちゃん達を見ていると、家族の団欒っていいなぁとは思うよ。私も一度くらいそんな経験してみたかったなぁって」
「…」
ソフィアが悲しそうな顔をしていることに気づき、ミシェルははっとしたように話を変えた。
「ああ、ごめんね!こんな話しちゃって。私の話は気にしないで。さ、残り完成させちゃいましょっか!」
「…ミシェルおねぇさん」
自分の名前を呼ぶソフィアにミシェルは微笑みを向けた。
「なぁに?」
「こんど、ソフィアがミシェルおねぇさんをおうちにしょうたいしてあげる!」
「え?」
驚くミシェルをよそに、ソフィアは目をきらきらとさせながら提案する。
「ミシェルおねぇさんもソフィアたちとごはん、いっしょにたべよう!そしたら、ミシェルおねぇさんもさびしくないでしょ?」
「嬉しいお誘いだけどそれはさすがにクリス室長たちに悪いから…」
いくら仲がいいとはいえ、流石に上司のプライベートに踏むこむわけにいかない。ミシェルは全力で遠慮した。しかし、幼いソフィアにそういった大人の事情が分かるわけもなく…
「なら、クリスとうさまがいいって言ったら来てくれる?」
「…わかった。もし、お二人がいいって言ってくれるのなら、その時はありがたくお邪魔させてもらおうかな」
「わかった!ソフィア、聞いてみる!」
嬉しそうにそう言うソフィアにやっぱりこの笑顔には敵わないなと思うミシェルなのであった。