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4.父様とお弁当作り

「おはようございます、ソフィア」

「うぅ…」


 クリスが優しくソフィアの肩をたたくと、ソフィアは呻きながら寝返りをうった。まだまだ眠たいらしい。かわいらしい寝顔を見ていると起こすのが可愛そうで、もう少し寝かせてあげたい気持ちになるが、そうなると一緒にお弁当を作るというソフィアとの約束が守れない。クリスは甘やかしたい気持ちに鞭を打ってソフィアの肩に再び手を置いた。


「ほら、ソフィア。今日はお花見ですよ。お弁当、作るんでしょう?」

「…おはなみ…っ、つくる!」


 ガバっと布団をはだいたソフィアは、先程までの眠たげな様子がまるで嘘かのように部屋を飛び出した。そんなソフィアをクリスはクスクスと笑いながら追いかける。


 洗面所についたソフィアを後ろから抱き上げ、手を洗い終わるのを見守ると、ソフィアを降ろし共にキッチンに向かった。棚から二つの瓶を取り出し、ソフィアにどちらのジャムがいいか選ばせる。今日はクアッフェの気分のようだ。


 クリスは棚からパンを取り出すと、薄く切りクアッフェのジャムを塗りつけた。そして、それをソフィアの食べやすい大きさに切って皿に盛りつける。


 ソフィアはクリスが朝食を準備している間に、自分専用の椅子に座ると机に置かれたコップに口をつけた。朝一番に飲むミルクはとても美味しい。寝起きの乾いた喉を優しく潤してくれるのだ。ソフィアはお腹が弱く、保冷庫から取り出した冷え冷えのミルクだとお腹を壊してしまう。そのため、クリスはソフィアがお腹をこわさなくてすむようにあらかじめミルクを保冷庫から出しておき常温に戻しているのだが、幼いソフィアには知る由もないことである。


 その後、ソフィアはクリスと共に朝食を食べ終えると、クリスと一緒にソフィアはお弁当を作り始めた。


「ソフィアにはおにぎりを握ってもらいます。この葉っぱにこうしてご飯を載せて、くるくると丸めてください。そうすると、ほら俵型のおにぎりが簡単にできるでしょう?これならソフィアにも作れると思います」

「すごい!かんたんだね!ソフィアもやる!」

「ええ、やけどにだけ気を付けてくださいね」


 ソフィアは見よう見まねで葉っぱに味をつけたご飯を載せた。そして、くるくると葉っぱを巻いていく。巻き終わりパッと葉っぱを開くと俵型に丸められたおにぎりが顔を出す。我ながら上手に作れたので、ソフィアはテンションが上がった。

 

 ソフィアがおにぎりを作っている間に、クリスは重箱に作り置きしておいた具材を詰めていく。途中でクリスも具材を詰め終わり、ソフィアと共におにぎりを作った。


 弁当を作り終え、クリスはソフィアを着替えさせた。この日のために新調したワンピースを着て、ソフィアは嬉しそうに鏡の前で回る。そんなソフィアを横目に自分の身支度も済ませたクリスは、ソフィアにいたずらっ子のような顔で言った。


「ソフィア。お寝坊さんなミカエルを起こしにいきましょうか」

「うん!」


 ソフィア達は音を立てないように静かに寝室まで移動すると、そっと扉を開けた。そして、ソフィアは忍び足でミカエルの眠るベッドまで近づくと、バサッと眠っているミカエルに抱き着く。


「ミカとうさま!おきてー!おきてってばぁー!」

「んん…あと、ごふん…」


 ミカエルはもぞもぞと布団をかぶりながら、二度寝しようとする。そんなミカエルをソフィアは容赦なく揺さぶり起こした。


「もぉう!きょうはおはなみだよ!…ソフィア、おきてくれないとミカとうさまのこときらいになっちゃうからね」


 その言葉を聞いた途端、ミカエルはがばっと起き上がり、ソフィアを抱きしめる。


「起きた!起きたから!だから、父様のこと嫌いにならないでくれ!」


 ぐりぐりと娘に頬ずりをしながらそう懇願するミカエルの姿にクリスは吹き出した。大柄で鬼の副団長と恐れられる一国の騎士が、娘の前ではたじたじである。シュールだなと思った。


「きゃー!おひげじょりじょりする!」


 無精ひげがソフィアの柔らかい肌に当って痛いのか、ソフィアはミカエルから逃げ出そうとした。しかし、しっかりとミカエルに抱き留められているためそれは敵わない。「はなして!」というソフィアにミカエルは「頬ずりは辞めるから、まだ充電させてくれ」とお願いした。ソフィアは仕方がないなという顔で、脱出を諦めると、大人しくミカエルの腕に収まった。


 しばらくして、ソフィアから顔を離したミカエルはソフィアの服装がいつもと違うことに気づきじっくりと観察する。そして、ぼそっと呟いた。


「…なんか、ソフィア。今日は一段とかわいいな。…可愛すぎてあいつらに見せたくない」


 今日も相変わらずの親馬鹿である。これはこれで眺めているのも面白いのだが、生憎出発までの時間が差し迫っていた。クリスはいつまでもベッドから動かないミカエルに呆れたように声をかけた。


「まったく、何を言ってるんですか貴方は。…ほら、さっさと起きてください。今日はソフィアが作ったお弁当なんですから」


 クリスの言葉にミカエルはハッと目を輝かせた。


「ソフィアが弁当を?!それは楽しみだ!」


 すぐ準備するから待っていてくれとミカエルは二人を寝室から追い出し着替え始めた。きっちりと騎士服に身を包んだミカエルと共に、クリスとソフィアはお弁当を持って騎士団の訓練場へ向かったのだった。

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