表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マザコンと云われたくない  作者: ももいろ珊瑚
1/2

マザコンと云われたくない

 

  アダムスの息子等は、おのれのイヴを求める_

  イヴならしめるは何かと(さぐ)るとき_

  順接のかたちでも逆接としてでも_

  我れたらしめたイヴが喚起されるのは_

  ことわりの中である。




 自分の理想の女性は、芸能人で云えば吉永小百合さんだ。

 “親世代の憧れの人を何故”と彼女が訊いた。



 彼女は高校の後輩で初めて相思相愛になった(ひと)だ。

 課外活動を通じて知り合い、同じ電車に乗り合うことが多く、他にも共通テーマが何等あり。気付けば行動をよく共にしていて付き合うように為った。

 文学少女の部分は、其れに遠く無かったかもしれない。

 “ しかし初めての相手とは結ばれない、と云うじゃないか? ”

 彼女自身にもそうと言って於いた。予め、という訳では無く一般論として話してあった。

 初恋とは結婚には至らず、最初から成就しないと決まっている様なもの、と。



 彼女を家に招いた。家の者が出払う休日を選び留守に来させた。

 自分の部屋を見せたいのもあった。学校や他所と異なった雰囲気で話したいのもある、蜜のときを過ごしたかったのも、だ。

 だが口づけを交わす間もなく、家人が帰宅する。

 門戸が開く音がして焦った余り、彼女に隠れている様に言ってしまう。何とか事無くして脱出させるから、と。

 そして各々が部屋へ入るのを見計らって外に逃がした。


 去り際に、母の反応は如何だったか?と問われた。

 靴が脱ぎ捨てられていたが挨拶も出来ない子?と言っていたことを伝えると、

 “ 誰のせい、言われるまま従ったのに ”

 “ 私が隠れて会わないといけない、恥ずかしい対象みたいじゃない ”

 と、泣き目で憤慨された。

 紹介するには早々だったし、するならば正式なものとしたい。唯それこそが理由だったのに……確かに、其れが遠退いたのは自明だったが。



 (とき)は流れて、彼女は自分の初めての(ひと)に為った。

 その前にも、その後も多々あったが之は別のはなしで、自分達は一層甘く語り合い戯れ(じゃれ)あった。

 更に月日は流れ、受験時節となり、母から決め事を言い渡される。受験が終わる迄は交際相手に会うな、と。


 翌日の帰途のホームにて、これを彼女に伝える。

 言葉を失い、眼に衝撃と動揺が浮かんでいた。自分もあとの句が出ない。


「……で、どうするの?もう会わないの?出来るの?貴方はそれでいいの?」

「仕方無いよ……」

「お母さんに言われれば、そうするのね」

「間違った事は言ってない。今は学業が本分なのはその通りだろう?結果が出る迄の数ヶ月会わないだけだよ」

「お母さんから言われた為じゃなくて。貴方がそう決めたから。……別れましょ」


 声には、落胆と怒りと諦めと侮蔑が聴いて取れた。

 “別離(わかれ)など望んでない、振りだけで良いじゃないか、考え直してくれ……”

 泣いて頼んだが、今回は聞き入れられること無く、二人は別れた。


 “お母さんが一番なんだから望むように見せてけば。私は代わりに成れないし、そんなのなりたくもない”

 彼女が最後に言った言葉。




 自分の理想の女性は、吉永小百合さんだ。

 何故と問われれば、そう。母のイメージがそこに在るから、と答えよう。

 だからと言って、“貴方はマザコンだ”、と決めつけるのか?

 違う、自分は至って常人だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ