表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シミュラクラ

作者: 水泡歌

 朝。彼の部屋。

 目を覚ましてまず見えたのは天井の染みだった。まっ白な天井に浮かぶ、なぜか彼そっくりに見える顔の形をした染み。私はまっすぐに右手を伸ばす。掛け布団がハラリと落ちて肩が剥き出しになる。

 横の塊がこちらに向かって寝返りを打つ。目の前にくる顔。天井の方には触れられそうにないから、そっちの方に手を伸ばす。額。目元。頬。触れているとぼんやりと目が開いて、私を認識して、目元に笑い皺が寄る。

「何してるの?」

 問われて天井を指さすと彼は「ああ」と言った。

「あの染み、君の顔に見えるよね」

 私は首を傾げる。

「私じゃなくてあなたの顔でしょ」

「え、君でしょ。僕はいつもこの部屋の天井を見ながら君を思い浮かべるんだよ」

「私はいつもこの部屋の天井を見ながらあなたを思い浮かべるのよ」

 二人で黙って天井の染みを見つめる。同時に吹き出す。

 私は言う。

「普通さ、天井の染み見て、恋人の顔なんて思い浮かべないよね」

 彼は返す。

「そうだね、それって中々失礼な話だよね」

 私は目尻の涙をぬぐう。

 3つの点が集まった物体を顔として認識する。

 この現象はシミュラクラと言うらしい。

 私たちのシミュラクラはきっと変わってる。でも、それでいいと思えた。

 また目尻に寄っている彼の笑い皺にそっと手を伸ばして、ベッドの上、私たちは裸でケタケタ笑い合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ