決闘
翌朝から休む暇もなく修練に励んだ。魔法の心得や剣術、武術、瞑想の仕方まで、おおよそ拳銃使いには必要ないであろう技術まで綿密に教わった。どうやら魔法を使うためには強い精神力と忍耐力が必要らしい。自分の内面を把握していなければ使える魔法の限界がわからないということだ。
この世界の魔法の定義についてはおおよそこうだ。
・覚えることのできる魔法に際限はない。
・属性は炎、水、地、光、闇、無の六種類。有利不利は自然界の摂理によるらしい。なお無属性のみ有利不利はない。
・人によって習得できるスピード、量、属性は多少異なるらしいがほぼ差はない。
オリヴィエ曰く、全身の魔力を十分に使えない俺は、簡易的な魔法しか使えないらしい。それでもないよりはましと必死に修練を重ねるとようやく銃口から弱い光のようなものがでるようになった。これを形にすることができれば、いわゆる低級魔法というものになるらしい。中級以降は魔力が乏しい俺には困難を極めるとのことなので出発には到底間に合わない。
精神を統一するための瞑想中に、ふと元の世界のことを思い出した。全ての才能に恵まれ、恵まれすぎたために何も関心が持てなくなった俺がこの世界では宝具が使えないばかりか魔法すら充分に使いこなせないとは、なんとも皮肉なものだ。俺が何の感情も抱かないまま踏み潰してきた奴らはきっとこんな気分だったのだろう。少しだけ、過去の自分が馬鹿らしく思えた。
そうして二日間ひたすらに自分の内面と向き合いながら、修練を積み重ね、銃口から魔法を放つことができるようになった。
「おめでとうございます、カイト様。この二日間での進歩は目覚ましいものでした。」
オリヴィエを始めとしたその場にいる全ての兵士、住人達が拍手した。
だれかにこうやって努力を褒められたのは初めてだった。それもそうだ、出来て当然、負けることは許されない、そういう家で過ごしてきた。それに世界を敵にまわしてからは敗北は死に直結していた。
この世界はそう言った意味では俺に成長の機会を与えてくれたのかも知れない。もっとも、一度死んでからでは遅すぎる気もするが。
「ありがとう、オリヴィエ、そして俺の修練に付き合ってくれた兵士達。心から感謝する。」
俺が頭を下げると兵士達は皆敬礼をした。中には涙が伝っている者もいた。きっと涙脆いやつなのだろう。
「さて、この二日間の修練の締めと致しまして、カイト様には実践形式の決闘をしていただきます。相手役と致しましては不肖、このオリヴィエが務めさせて頂きます。それでは闘技場へ参りましょう。」
「なるほどな、面白い試みじゃねぇか。出発前最後のメインイベントにふさわしいな。」
俺は兵士達に連れられて闘技場へ向かった。手には二丁の拳銃が握られている。正直、まだ魔法には不安がある。しかしそこは拳銃の扱いでカバーするしかない。そのための実弾なのだから。
闘技場に入ると、どこにこれほどの人がいたのかと思うほどの観客で溢れていた。旅の前にこのような舞台を整えてくれるとは、粋な計らいをしてくれる。
「さて、始めようか、オリヴィエ。悪いが銃の知識がないお前にいくら魔法が使えないとはいえ負けるはずがねぇ。お前に気持ちよく勝って、救世主を討伐しなくちゃならないんだからな。」
オリヴィエは静かに剣を鞘から抜く。
「カイト様、この3日間、お側に支えさせていただき、本当に光栄でした。その御恩、此度の決闘での私の全力を持って帰させていただきます。」
俺はセイフティレバーを外し引き金に手をかける。
「さぁ、初陣だ相棒。」
オリヴィエは剣を空高く掲げ、声高らかに叫んだ。
「空の騎士団団長『剣聖』オリヴィエ・イスファール、参る。」
大きな鐘の音がなり決闘の火蓋は切られた。




