適性ナシ
そういって案内された先は地下闘技場のようだった。四方には四色の旗が掲げられている。各騎士団の旗だろう。そして先ほどとは比べ物にならない量の兵士達が観客席らしきところに座っている。闘技場をくるりと取り囲むように露店が立ち並び、賑わいを見せている。
「おいおい、こんなところがあったのか。地上とはえらい違いじゃないか。」
「驚きましたか?地上にいるのはほんの一部です。まぁ、これでも王国時代の一割にも満たないのですが…。」
これで一割…。これほどまでに強力な国家だったのか。そんな大国を滅ぼした奴らとは一体…。
オリヴィエが話を続ける。
「我々も微力ですがこの国を守るために尽力しているのです。どうぞこちらに、来たるべき時の為の宝具が御座います。過去に起こった大戦の産物とでもいいましょうか。元々は魔王に対抗するつもりで開発が進められていたのですが、王からカイト様に献上する様にと仰せつかっています。」
あの王様、俺がこいつらを頼るしかないのをわかって詳しい内容を教えなかったのか。全部掌の上だったってか。
兵士たちに連れられるがまま闘技場からさらに地下へ下ると、巨大な扉が立ち塞がった。何重にも鉄格子が敷かれて物々しい雰囲気が漂っている。よくみると右端にセンサーのようなものがついているのがわかる。
「カイト様、こちらに手を。貴方様の力が認められれば自然と門は開かれるでしょう。御武運をお祈りしております。」
やれやれ、武器を手に入れるだけでも一苦労というわけか。
「もし認められなかった場合はどうなるんだ?」
「最悪死に至ります。しかしカイト様なら難なく開放することができるかと。」
一か八か、やるしかないというわけか。
仕方なくセンサーらしき板に右手をかざす。
刹那。とてつもない力が流れこんでくるのがわかる。指先から腕の付け根までが激しく発熱する。熱い。溶けてしまいそうだ。
気を抜くと意識まで持っていかれそうになる。全神経を右腕に集中し、力を押さえつけるようにイメージする。すると、少しずつ少しずつ、力の流れをコントロールできるようになった。このまま耐えれば門が開くのか。更に力を込め、さらに多くの力が右腕に流れこんでくる。すると、急に右腕が軽くなり、代わりに扉に敷かれた鉄格子は扉もろとも粉々に砕け散ってしまった。
「はぁ、はぁ…これで成功なのか。」
とたんに全身から力が抜けていく。バランスが保てなくなりふらつくと背後からオリヴィエが支えてくれた。
「カイト様……一体何をされたのですか。扉が壊れてしまうとは…」
「成功…したんじゃないのか?扉は開いたじゃないか。」
オリヴィエは俺の右手に目をやるとみるみると顔が青ざめていった。
「なんだよ。俺の腕がなにか……」
信じられなかった。俺の腕が黒く変色しているではないか。それだけではない。変色した腕には指先から肩にかけて真っ白な線が光沢を放ちながら何本も刻み込まれているのだ。
「まさか、失敗…。力の流れを拒まれたのですか…。」
「あぁ、そうだ。俺を取り込もうとしたからな。」
オリヴィエは愕然としていた。周りの兵士たちもざわついている。
「カイト様、非常に申し上げにくいのですが…、宝具というのは本来身体に入り込んだ力に耐えられるかどうか、自身にふさわしい人間かどうかを判断するのです。ですから…その、人が宝具の力を拒めるはずがないのです。ましてやその右腕。こんなことは初めてです。おそらくは…。」
オリヴィエは言葉を詰まらせた。あとに続く言葉は容易に予想がついた。
俺は「適性ナシ」と判断された。
「お前は才能がないな」
誰かにもそう言われた。剣道のジュニア大会を制した時だった。
「親の言い成りになるだけであとは多額の金を投資してもらえる。その上成績は自分のものだ。生まれが立派だと人生楽でいいな。」
…うるさい黙れ。そんな俺にも勝てないお前が減らず口を叩くな。
「カイト様?大丈夫ですか?」
一人の兵士の声でハッと我に帰った。
「すまない、状況はわかったがこの腕は何なんだ。適正のないやつは死ぬんじゃないのか。」
オリヴィエは腕を組んだ。
「そこが問題なのです。適性がないにもかかわらず、その右腕には魔力が宿っています。魔力量的に宝具の力そのものです。状況的に見て、一部宝具の力を奪ったと考えるのが妥当でしょう。」
「奪った? 俺が? さっきからその宝具って奴は一体なんなんだ。」
「この大地に伝わる伝説、かつて神が使った十個の武具を現代の技術で蘇らせたものの事を言います。その力は強大で魔王軍を次元の狭間に閉じ込める時に使われたとか。実のことを申しますと、もう宝具はほとんど残っていないのです。あの忌々しい悪魔どもが王から渡された宝具を今も持ち続けているので、残る宝具はあと4つしかありません。」
「おいまて、今さりげなく重要なことを言わなかったか?俺が今から戦うやつらも宝具を持っているのか。そんなやつらにこれから右腕一本で挑めってか。」
「はい。ともかく中に入りましょう。もうこの宝物庫も使い物にならないのですから。」
その日初めて俺は、この世界の自分には才能がないのだと自覚した。




