罪の数
国王サマの話を要約するとこうだ。
この世界は俺らの住んでいた世界とは違い、いわゆるファンタジーの世界に近いらしい。多種多様な種が共存しており、それぞれが巨大な国家を形作っていた。
この国、アルクベルグはその中でも最大級の国家で、主とした種は人間に近しいもの達らしい。そしてこの世界には遥か昔からの伝承があり、反映しきった文明を一度リセットするため数千年に一度次元の狭間から魔族を率いた大魔王が襲来するという。
長らくの間魔王軍に対抗する術はないとされてきた。しかしある時、アルクベルグを中心とした超大国連合による研究チームが対抗策を見つけることに成功した。その対抗策とは同じく次元の狭間から異世界の救世主を召喚するというものだった。異世界というのが元々俺が生きてきた世界、俺らの生きていた次元らしい。そこで召喚された6人の救世主は見事に魔王軍を撃退することに成功し、この世界には平和が訪れ、彼らは救世主として崇められるようになったのだ。
「で、いいじゃないか。ハッピーエンド迎えてるじゃねぇか。なんで俺呼ばれてんだよ。」
訳の分からない状況に加え、呼ばれた理由まで意味不明で思わず口調が荒くなってしまった。
国王の話はあまりにも俺達の世界のテンプレートなファンタジー世界に合致していて、思わず話を聞いている間に失笑してしまった。
「実はここからが本題なのだ。恥を忍んで頼みたい。そなたには6人の救世主を討伐してもらいたいのだ。」
「言ってる意味がわからない。その6人によってこの世界は救われたんじゃなかったのか。」
国王は少し躊躇いながら、さっきまでの威厳ある態度とは打って変わって申し訳なさそうに切り出した。
「それが、我らは魔王討伐の任を終えた救世主達を元の世界に返そうとしたのだ。しかし彼らは魔王の力を吸収し強大な力を持ってしまった。こちらとあちらを行き来する力を手に入れてしまった。その後彼らは私利私慾のためにこちらの世界の支配を始めるとあっという間にこちらの世界は彼らに支配されてしまった。恥ずかしい限りだがそなたを呼んだのは、なす術ない我らの代わりに彼らの悪政を滅ぼして欲しいのだ。」
二人の間に長い沈黙が訪れる。先に沈黙を切り裂いたのは俺だった。
「あんた仮にも国王だったんだろ、それ自分で言ってて恥ずかしくねぇのかよ。」
国王はがっくりと肩を落としてしまった。どうやら国王のプライドも切り裂いてしまったようだ。
「面目無い限りだ。しかし、我らの想像をはるかに超える力を前に我々はどうすることもできなかった。そのせいで我が王国もこのざまだ。人々は去り、街は輝きを失った。そなただけが我が王国を。いやこの世界を救うことのできる真の救世主なのだ。」
先ほど見た、廃れきった街並みがフラッシュバックする。魔王を倒しこの世界を救うために選ばれた人間が逆に世界を滅ぼす魔王と化してしまうなんて、なんとも皮肉な話だ。彼らにこの世界の未来を託したもの達があまりにも浮かばれない。しかし…
「事情はわかった。けれど、なぜ俺なんだ。俺は…。」
ずっと気がかりで仕方がなかった。こいつらはなぜ俺を選んだ。この世界を救うのにふさわしい人間なんて他にいくらでもいるだろうに。よりによって俺を選ぶなんて…。
国王は俺の目をまじまじと見つめ、こう言った。
「そなたのことを我々が知らないと思ったのか?三坂海斗、大罪人よ。そなたは選ばれたのだ、この世界を救う救世主に。そなたの行った過去の罪は消えない。しかしせっかくもう一度生を授かったのだ、一つぐらい世界を救ってもよかろう。」
衝撃だった。この世界にきてから何もかもがどこか現実味がなくて、偶然の産物、死に際の置き土産くらいに思っていた。けれどこの国王は全ての俺の罪を知った上で俺を選んだのだ。そんな、こんな俺なんかが、仲間の命すら救えなかった俺が世界なんか救えるはずがない。
居ても立っても居られず、思わず椅子から立ち上がり、声を荒げた。
「そこまで知っているのなら尚更…なおさら俺は相応しくない。俺だってそいつらみたいに平気で裏切るかもしれない。それに、俺は目的の為なら平気で人を殺す…。俺以外の命なんて…どうでもいいんだよ!!」
事実だった。もう幾つの命を奪ったか覚えてなどいない。そればかりか散っていった仲間の名前すらもう覚えていないのだから…。
国王は怪訝な顔をしながら、もう一度ため息をつき、にこやかに笑いかけた。
「何度も言わせるな、そなたのことは全て知っている。そなた自分なりに世界を変えようとした、その結果世界に反逆することを選んだ。これを正義と言わずになんという。それに、そなたは死して尚仲間のことを思っていたではないか。私には到底、残虐な大罪人には見えんがな。」
膝から崩れ落ちるしかなかった。そうだ。認めて欲しかったのだ。どこかで俺は期待していた。期待され続けることから逃げてきた俺の選択は、世界に対して俺達が行ってきたことは正しかったのだと、たった一言、その一言が欲しかったのだ。自然と涙が頬を伝った。
国王は静かに組んでいた足を解き、玉座から立ち上がると俺の頭にそっと手を置いた。
「泣き崩れるのはまだ早いぞ若人よ。どうだ、そなたの正義のためにこの世界を救ってくれないか?」
答えはもうすでに出ていた。指先で必死に涙を拾い集める。
スッと深呼吸をし、前を向いた。
「せこいよな。こんなん、断れるわけ…ないだろうが。」
長きに渡る俺の正義を確かめる旅の始まりだった。




