プロローグ
初投稿になります!気ままに投稿していくので、どうぞお付き合いください。
将来の展望を問われた子どもが
「歴史に残るぐらい有名になりたい」
と発することがある。もっとも、今の時代、この言葉を耳にする機会はめっきり減ってしまったが…。
この際、教科書に名前を残せるたった2つだけの方法を書き記しておこう。
一つは偉大な功績を残すこと。もう一つは…歴史的な大罪を犯すこと、だ。
先日、ある大罪人の死亡が日本政府から発表された。世界全土で同時多発的なテロを繰り返し、日本史上最悪とも言われた新宿駅占領事件で多数の死者を出したテロ組織「救いなき軍隊」の主導者である。
「三坂海斗」
いかにして彼は残虐なテロリストへと成り果てたのか。それは彼の幼少期にまで遡る。
何をしても満たされることはなく、乾きが癒えることがない。そんな自分自身に少年は嫌気がさしていた。彼は鉛色の世界にいた。
「何事にも満たされない」
本来、自己嫌悪の象徴のように使われる言葉だが、彼は全く別様だってた。
恵まれた環境下で育ち、親からの愛情を一身に受けて育った彼は、上流階級の人間としての将来を有望視されていた。少年の両親は教育熱心なことでも有名で、時代錯誤と思われてもおかしくないほど極端な思想の持ち主だった。息子が万芸に秀でるためなら惜しみなく金を注ぎ、ありとあらゆる分野の習い事をさせ、やるからには全てにおいてトップを取ることを当然の如く求めた。
そんな両親の思惑通りに、少年は容姿端麗、頭脳明晰と、非の打ち所がないほどに立派に成長した。屋敷は常に多くの従者と来訪客で賑わい、彼が登校する際は多くの護衛が付き従った。「まるで本物の皇族のようだった」と当時を知る者は皆口を揃える。
ピアノ、剣道、サッカー、学業、どれをとっても他者に劣ることなどなく、彼は常に頂点に君臨した。彼に敗北してその道を閉ざされたものは数知れず。才能に恵まれている、などという生半可な言葉では言い表せない、紛れもない天才そのものだった。その圧倒的なまでの才能を前に、群衆は彼ら家族を心からの敬意と一握りの皮肉を込めてこう呼んだ。
「選ばれし一族」と。
しかし、そんな人々の声とは裏腹に、彼は自ら選んだわけでもない境遇へのやりきれない気持ちとひたすら格闘する毎日を送っていた。
何故、自分は普通の人間とは違うのか。
彼はついに自分で自分を律することができなくなり、15歳の春、家を飛び出した。
ここまでが大罪人「三坂海斗」に関して分かっている幼少期から事件に至るまでの経緯である。彼が家を出てからの消息は現在調査中だ。しかしながら、海外で彼の姿を見たと言う証言も多数あることから、国外の過激派組織との関連性があるのではないかとする見解もある。いずれにせよ彼が死んでしまった今となっては真相は闇の中だ。
結果として、彼は周囲の期待を裏切り、この世を去ることになった。しかし、これが、彼なりの正解だったのかも知れない。自身で選択した唯一の道であった、という意味において。
これは歴史的大罪を犯した彼の「その後」の物語である。




