表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/55

女神ユカリと第一の試練

 王家の試練内部は、これまた豪華な家だった。

 中央にでかい階段と吹き抜けバルコニー。赤絨毯も完備。

 調度品もあるし、見上げれば綺麗なシャンデリアが部屋を照らす。

 ゾンビでも出そうな洋館だな。


「ようこそサファイア・アストラエアよ。私は女神ユカリ。今回の試練を担当する女神です」


 ユカリが階段を気品溢れる感じで降りてくる。

 なびく長くて綺麗な銀髪と美しい紫の瞳。そこそこ完璧なスタイル。

 女神だけあって美形も美形なんで様になっちゃいるけどさ。

 なんだろうね、背伸びしているように感じるわ。


「サファイア・アストラエアです。よろしくお願いします」


「この世界の危機は知っています。どうか試練を達成し、世界に希望の光を灯してください」


 自愛をたたえた笑みを頑張って作っている。

 そういうのできたんだな。そういや俺も最初にやられたかも。


「それで、お前なんでいる?」


「今女神っぽく挨拶してたでしょう! 威厳とか出す場面なんですよここ!」


 もう同年代みたいな感じで崩れている。シリアスが持続せんのはお互い様か。


「んなこと言われてもな……ツッコミの人っていうイメージだし」


「人じゃないです女神です! ボケ倒す人がいるからでしょうに……」


「そうしなきゃ勝てないんだからしょうがないだろうが」


「あのー……私はどうしたら?」


 サファイアが所在なさげで困惑中。

 いかんこいつメインだったな今回。


「すまんすまん。久しぶりに知り合いに会ったからな」


「まだ一ヶ月くらいじゃないですか?」


「そうだっけ? こっちでもいろいろあったもんでね。まだそんなもんか」


「マサキ様」


「悪い。今度こそちゃんと聞くよ」


 世間話が始まってしまうのはよくない。ここはしっかり説明を聞こう。

 聞くためにポケットからマッサージチェアを三人分出す。


「威厳だいなしになっちゃいましたので、ざっくり説明しますよ。三個の試練を突破して、王家の秘宝に認められたらクリアです。各試練は私が案内をします」


「ありがたい」


 ユカリはマッサージを強にしている。いろいろ心労とかあるのかもな。


「マサキ様が全部倒したりしないこと! サファイアさんの試練なんですからね」


「わかってるよ」


「誠心誠意あたります!」


 サファイアは女神の前とあって若干緊張気味。

 椅子も警戒して座っていない。安全だと教えて座らせてやった。

 少し緊張とコリをほぐしがてら雑談といこうか。


「さて、ちょいと話題は逸れるが、お前ここの管轄じゃないだろ」


「あああぁー……気づきます?」


「気づく。というか旅の途中でお前の経歴と管轄は聞いた」


「そういえばそうでしたね。ざっくりですが、アストラエアっていう名前そのまんまな神がいまして、その子が管轄だったんですよ」


「あぁ……これは疲れが取れ……アストラエアは神様の名前だったのですか!?」


「そうですよ。代々王家の人間しか知りませんけれど」


 サファイアはもう予想外の情報が氾濫して、目があっちへ行ったりこっちへ行ったりだ。

 この件、ちょっと深い事情がありそうだな。


「マサキ様がいるならもう隠せませんので、ぶっちゃけます。帝国の改造人間ですが、あれ別世界の技術なんですよおおぉぉぉ……これ肩たたきモードどうやるんです?」


「別の……世界?」


「やっぱりか。どうも解せなかった。横にモードってボタンあるだろ。それ押せ」


 あいつらはサイとかタコとか、妙なもんばっかりだった。

 しかも改造つったって手術の後も魔術の術式も無い。

 能力も含めて、明らかにこの世界の技術体系じゃなかった。


「帝国にいる邪神が持ち込んで、本格的に生産を始める準備中ってところです」


「そんな! うああぁ……これ振動ちゅよい……帝国の目的はなんなのです!」


 マッサージチェアに戸惑いながらも、健気に耳を傾けているサファイア。

 スイッチで振動を弱にしてあげた。


「この世界で実験と栽培をして……まあ自分の下僕強化かね」


「その線をメインで調べています。アストラエアちゃんは責任感が強いので、調べきるまで戻らない。なのでお友達の私が代理です。今回の帝国包囲網は、各国担当の女神も参加しています」


「……国に個別で神が? 随分と待遇の良い世界だな」


 異世界の可能性は無限だ。膨大でなんでもあり。

 だからそういう世界もあるっちゃあるだろう。


「こことギャンゾック以外は特例です。一時的にふんわりバレないように加護をかけ、他国の侵攻やらを防ぎ、確実に帝国を仕留めるためです」


「技術の流出を防ぎたいわけか」


 喉が渇いたのでテーブルと紅茶を出す。

 よく冷えていて素晴らしい。


「確実に帝王を追い詰める必要があります。そういう意味では、マサキ様がいたのは僥倖ですよ」


「妙な縁もあるもんだ」


「不思議です。マサキ様と女神様がまるでお友達のように話していて」


「旅の相棒だったからな」


 付き合いが長くなったからか、神というほど神聖な存在に見えん。

 ちゃんと有能であることは知っているし、これまで助けられた感謝もあるよ。


「まあいい。とりあえず試練を済ませちまおう」


「じゃあがんばってください」


「お前が案内するんだろうが」


 微塵も椅子から立つ気配がない。ずっと目を閉じているし、寝る気かこいつ。


「動きたくない……紅茶あるんですからケーキとかないんですか」


「いいからやれ」


「はいはい、しょうがないですね」


 二階への階段の踊り場に、時空を繋ぐゲートが出た。


「最初は力の試練です。見事打ち勝ってください。倒したら戻ってきてくださいね」


「雑だよ。もうちょい説明しろって」


「サファイアよ、あなたはアストラエアの姫。エメラルドと同じく試練に打ち勝てば、この世界に繁栄と平和をもたらすでしょう」


 それっぽいこと言って寝ようとすんじゃねえよこいつは。


「やってみます。マサキ様も一緒ですから。きっとやり遂げられます」


「じゃあ行ってくる」


「ケーキだけ出していってください」


「出さねえよ」


 ゲートを潜ると、ローマのコロッセオのような場所だった。

 観客はいない。よく晴れているが、今は空を見上げる気分でもない。


「準備はいいな?」


「いつでもいけるわ」


 剣を手に取り、敵に備えて構えている。

 少し緊張しているかな。やはり王家のプレッシャーとかあるのだろう。


「よく来たな、アストラエアを継ぎし者よ」


 観客席に雷が落ち、赤くて巨大な鎧が姿を現す。

 楽に2メートルは超えている。

 雄々しくどこか知的な印象を抱く獅子の鎧だ。

 首から上をすっぽりとライオンの顔をかたどった兜で覆っている。


「力の試練はワタシたちが相手よ!」


 また雷が落ち、ライオンの横に四角い……四角でもないな。

 なんだあれ。いびつな四角に棒人間みたいな手足が生えている。


「ワタシはサラダチキン。この試練、見事超えてみせなさい!」


「サラダチキンだったー……」


「よくわからない生き物ね」


「あれ生き物なのか?」


『言い忘れてましたが、マサキ様用の敵も作ったのでファイトです』


 ユカリの声が響く。先に言えやそういうの。


「っていうか俺用がサラダチキンってどういことだよ!」


「お肉食べ過ぎだから、少しはヘルシーになれってことじゃない?」


「それを試練にすんなや!」


 炎と電撃を纏った獅子が、闘技場中央へと降り立った。


「これ……本当に勝てるの? お母様は勝てたの?」


「エメラルドか……あの者は確かに私に勝ったぞ」


「やっぱあの人強いんだな」


 全盛期を過ぎているらしいので、昔はもっと強かったのだろう。


「なら……なら私だってやってみせる! 赤き獅子よ、サファイア・アストラエア、参ります!」


「よかろう。かかってくるがいい!」


「やっちゃいなさい、ライオンちゃん!」


 まずはサファイアの戦いを見せてもらおう。

 この試練の主役だからな。


「危なくなったら交代してやる。全力でいけ!」


「はいっ!!」


 そして戦いの幕が上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ