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俺の幼馴染達が最強すぎて俺にはどうすることもできないのだが  作者: 嵐山 紙切
第2章 Sランク冒険者と魔王

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第6話 エルマの家

 騎士団の戦略室で、エルマと俺、先に到着していたアゼル、騎士団の各隊長が地図を囲んで睨みあう。

 エルマは腕を組んで、じれったそうに指で鎧の肩当を細かく叩いて話を聞いている。俺はエルマが買ってきた杖に体を預けて立っていた。


「で、教会の場所は?」


 騎士団長は俺を見てそう言った。ドレークより筋肉量は多く脂肪は少ない、巨大だが引き締まった体をしている。40代だろうか、額の皺は深い。


 俺は地図を指さして言う。


「教会はここにあります。教会と言ってもこの街のように周囲を壁で囲われていて、常に見張りがいます」


「ここにはチャンドラー家の城と街があったはずだが? ここら一帯はグラスター伯領だろう」


 隊長の一人が眉間にしわを寄せて言った。赤髪に黒い毛が若白髪のように混じる特徴的な髪をした若い男だ。団長が答える。


「それは名目上だけだ。今は誰が主権を握っているか分かったものじゃない。チャンドラー家は10年ほど前にかなりまずい政略結婚を行って崩壊したはずだ。結婚相手はどの家だったか公表すらされていないし、以後周囲との交流も断っている。魔女と婚約したとか、異教に魅了されたとかいろいろ噂が立ってるのを聞いたことがあるだろう。しかしまさか、村を襲って子どもを兵士にしていたとはな」


「詳しいですね」


 エルマが言うと団長は苦笑した。


「これでも爵位持ちですから」

「知らなかった」


 興味なさそうにエルマは言った。


「城攻めとなると、もはや戦争ですね」


 赤黒髪の隊長が言った。


「今回襲われた村々は我々の領主がもつ領土だ。どちらにせよ戦争だよこれは。名目上も事実上もな」


 団長はそう言ってため息をつくと、地図上にこぶし大の駒を置いて続けた。


「相手側にスキルや魔法を使う者がいないのは救いだな。彼の話によると城も魔法で防御されているわけではないようだ」


 団長は俺をちらとみた。嘘をついていないか俺の反応を見た、というのが正しい。


 俺の隣でエルマが口を開いた。


「そのでかい駒なに? 必要ないでしょ」

「戦術を立てているのですが」


 団長はぽかんと口を開けている。


「私のパーティにSランク冒険者の魔法使いがいる知ってる? ジェナっていうんだけど」

「それは存じ上げておりますが」

「あの子いれば戦術なんていらないのよ。門だろうが城壁だろうがあってないようなもんだし」


 エルマはそういって地図を指さした。


「魔法で門を破壊するわ。多分一番守りが固いだろうし。やつらがどやどや出てきたら、強力な閃光魔法で目をつぶすからその間に殺せばいい」


 団長は苦笑した。


「それは騎士道精神に反します」

「騎士道なんて知らないわよ。私たちは冒険者で、しかも相手だって騎士道精神にのっとらず村人を惨殺したじゃない。魔物と同じよ魔物と。あなた魔物と戦うときいちいち宣戦布告するわけ?」


 エルマが団長を睨みつける。彼が黙りこくっていると、隊長の一人が口を開いた。


「あの、話を聞いているとあなた方パーティだけで教会をつぶすことができるのでは……」


 若い隊長だった、柔らかな金の髪は短く、表情に幼さが残っていた。たぶん頭脳ではなく戦力で隊長になった口だろう。


 彼が発言した瞬間、団長以下隊長連中の顔に焦りの色が浮かんだ。額に汗を浮かべ、顔を真っ青にしている。そのあと、顔を覆ってうつむいた。


 エルマはその若い金髪に向けて片目を細めて言った。


「あなた方の体裁を保つために共同戦線を張るという提案をしたのですが。体裁を気にしないのであれば私たちだけで行いますよ。領地を襲われたのに冒険者に尻拭いをさせる騎士団だと、領主や領民に見られてもいいのであればですけど」


 金髪は顔を真っ赤にしてうつむいた。


「いっいや、待ってくれ。悪かった。先ほどの戦術でかまわん。好きなようにやってくれ」


 団長は狼狽して言った。


「じゃあ、当日はよろしく。それと、ちゃんとこの街の領主にも通達しておくこと。アゼル彼らについて行って」


 そういうと、エルマは俺を連れて部屋を出た。アゼルが俺のことを睨んでいた。





 騎士団の兵舎を出るまで、エルマはお仕事モードONできびきびと歩いていた。俺は慣れない杖をつきながら彼女の後を必死で追いかける。


 街に出る。

 すでに日は暮れかけている。教会が定時の鐘を鳴らして、鳥が羽ばたく。


 しばらく歩くとエルマは立ち止まって振り返った。騎士団と面と向かっていたときとは違い、その顔はほころんでいた。


「ごめんね。もう少し歩くことになるけど。杖慣れないでしょ?」

「平気だよ」

「肩貸そうか」

「いい」


 って言ってんのにエルマは杖を奪って肩を貸し付けた。というより、ほとんど体を密着させるようにして体を支えるもんだから歩きにくいったらありゃしない。支える? いや抱き着いていると言ったほうがいい。エルマは小さく「うへへ」とか言いながら顔を染めてにやにやしている。


 すれ違う住人の視線が痛い。


 エルマは自分が有名人だという自覚がないのか俺の脇腹に頬ずりをしていて、


『あれ、Sランクのエルマ様だよな』とか、

『隣にいるの恋人? アゼル様がそうなんだとばかり思ってた』とか、


そんな周囲の声が全く耳に入っていない様子。視線と噂話の尾を引きながら街の門までたどり着くと、つないでいた馬を受け取って街の外へ出た。


「あれ、一頭だけ?」

「あなたのは売っちゃった。一頭いれば十分でしょ。乗って」


 促されて馬にまたがるとエルマは後ろにまたがって俺の体に腕を回した。


「指示するからその方向に進んで」

「どこ行くの」

「私の家」





 Sランク冒険者ともなると宿ではなく家に住むらしい。


 昔、俺がまだ村にいたときは近くを通った冒険者を家にしばしば泊めていた。彼らは少ないながら金を両親に渡し、旅の話を俺に聞かせた。定住せず流浪の民である彼らは宿に泊まるのが基本で、生活に必要な荷物のすべてを運んでいるのだそう。


 そんな話を聞いていたものだから、エルマの家に着いたとき俺は仰天した。


 豪邸。俺は領主の家なのではないかと思った。


 馬小屋には他に何頭か馬がいて、鶏がいて、豚がいた。それらを管理するおじさんが俺たちに頭を下げた。帽子をとると頭がつるりと禿げていた。


「お客様ですかな」

「これからここに住む、大事な客人よ」

「え?」


 俺は言葉を継ごうとしたがエルマはまた抱き着く形で俺の体を支え、押して、家の入口まで連れて行った。

 入口の戸が開いて、光石をいれたランプを手に持った女が現れた。


「おかえりなさいませ、エルマ様。お客様ですか?」

「ええ。これからここに住むから、夕食は二人分お願いね」


 メイドと思しき女は無表情で、突然の訪問者に驚くことなく、


「かしこまりました」とだけ言って、道を開けた。



 家に入るとエルマは「こっち」と言って俺を案内した。いくつもの扉がある廊下を進み、一つの部屋を開ける。昔俺が住んでいた家くらいの広さがある。ベッドがあって、窓には木の扉がついており、今は閉まっている。エルマはランプを天井にある金具につるすと振り返った。


「これからはここを使って。いつもはパーティメンバーとかお客を泊めるとこなんだけど、いくつか部屋はあるから」

「ちょっとまって。俺はここに泊まっていいのか」

「もちろん」

「エルマのパーティメンバー――特にアゼルが俺のことを信用できないって言ってたよな? そんな俺のことを泊めるなんて……何というか、バカげてる」

「バカげてる?」

「ああ。彼らの言うことはもっともだ。もしかしたら俺はあの奴隷兵士たちと同じように村人を襲ってたかもしれないんだぞ」

「でも、あれが初陣で、手をかけようとした親子は逃がしてあげたんでしょ」

「そうだけど、俺が嘘ついてるかもしれないだろ? 証拠はないんだから」

「べつにいいわよ。嘘ついてたって」


 あっけにとられているとエルマは俺に近づいて、あろうことか、俺をベッドに押し倒した。右脚のない俺は簡単に仰向けに倒れた。彼女は不敵な笑みを浮かべて俺に覆いかぶさってくる。


「私はね、ハルが帰ってきてくれたことがうれしいの。ハルがそばにいるってだけでうれしい。だから嘘ついてたって気にしないよ。それに、本当のこと言ってるんでしょ。わかるよ。幼馴染だから。何年一緒にいたと思ってるの。何年ハルのことを見てきたと思ってるの」


 呼び名が愛称に変わっている。経験上こうなったときの彼女を止めることはできない。さみしがりで、甘えたがりなエルマが、発情したように周りのことなんか見えなくなる瞬間がある。


 エルマは呼吸を荒げて顔を近づける。俺の名前をつぶやき続ける。


「ハル……ハル……」


 瞳孔が開いて、青い虹彩が暗く色を変えたように見える。吸い込まれるような深い色に。


「わかった……わかったから……おちつい……」


 口がふさがれる。唇が重なる。舌が侵入してきて、歯茎を沿うように嘗め回す。


「んっ……んう……ぷはぁ」


 恍惚とした表情を浮かべてエルマは舌を出したまま口を離す。唾液が糸を引いて舌から零れ落ちる。


「もっと……もっとぉ」


 エルマは自分を抑えられないようだった。ともすれば初めから抑える気すらないのかもしれない。また、唇が押し当てられる。彼女の両手が俺の脇腹をさする。肩をつかんで体を密着させる。


「んん……痛い!」


 俺は顔を背けて呼吸し叫んだ。エルマの鎧が腹に食い込んでいた。


「あ、ごめん。鎧のままだったね」


 そこで我に返ったのかエルマは顔を真っ赤にして、慌てて体を起こすと目をそらした。


「あの……えっと……だからいつまでもここにいていいんだよ」

「ああ……うん」俺はあっけにとられてそう答えた。

「ちょっと頭冷やしてくる」


 エルマは立ち上がると頭を振ってそういい、部屋から出て行った。

 なんだったんだ。


 昔、半分あそびで、恋人ごっこみたいな感じでキスをしたことはあったけどエルマはあの時から本気だったんだろうか。俺はベッドに仰向けで寝ころんだままそんなことを考えていた。





 エルマに出会ったのは全くの偶然だった。

 それをいったら他の幼馴染たちに出会ったのも偶然ではあったけれど。

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