第45話 虚偽の記述
「なぜ死なない! ステイシーの話ではあの石は不死身するためのものだと!」
「いくつか勘違いしているようだから我が説明しよう」
ミカエルは地面におりて、エルマの元へとよった。パーティメンバーは後ずさった。
「まず、3つの石は一人の人物にスキルを与えるためにある。このユキハルという男の場合そのスキルは《万物生成》。ただしカマエルが調整をしていたようだが」
ミカエルはカマエルを見上げた。
「次に転移者には必ず何らかのスキルが付与される。そのスキルは転移させた者、召喚した者が選ぶ権利を持つ。負のスキルを付与させた例もあるが、ユキハルが付与されたのは《不死身》だが、完全な不死身ではない」
「何! そんなバカな!」
カマエルは叫んだ。
「お前に渡した『天使経典』には虚偽の記述がたくさんあるんだよ。我がつけた、ね。お前は初めから危険過ぎた。攻撃的なんだよ、天使のくせに」
ミカエルはエルマの頭に手を触れた。
「ユキハルには《20年不死身》のスキルが付与されている。だから殺すことはできない。まあ、今となってはただの死なない人間になりさがっているがな」
ミカエルは眉根を寄せた。
「これは深い迷宮だ。少し整理しよう……よし」
ミカエルは立ち上がるとユキハルを見た。ユキハルは何度も能力を発現させようとしていたが、何も起きない。
「クソ、クソおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
「この天秤がわかるか?」
ミカエルは尋ねたが、ユキハルは答えない。
「魂の天秤だ。普通の人間であれば本来、生きている間、中立になっていなければならない」
ミカエルはユキハルに近づいた。ユキハルは何度も右手を突き出したが効果がない。
「お前の魂はこうだ」
天秤が片方にぐんと傾いた。
「お前はこの世界にいてはいけない。元の世界に戻れ」
ユキハルの顔が絶望に染まっていく。
「嫌だ……嫌だ嫌だ!!! あんな腐った世界に戻りたくない!! 止めてくれ! カマエルなんとかしろ」
「ああ、忘れていた」
カマエルは今にも逃げ出そうとしていたが、ミカエルが剣を投げると胸に突き刺さり、そのまま消失した。
「死んではいない。別の場所にいる。まあ苦痛の地獄だが」
ミカエルはユキハルに向き直った。
「さて、では君を元の世界に帰そう」
ユキハルは逃げようとしたが、体が自由に動かないようだった。地面には先程俺たちの足元にあった魔法陣が描かれている。
「やめろ……やめろ! 誰か助けてくれ! ナオミ! ナオミ!」
「うるさいやつだ。とっとと戻れ」
ミカエルは右手の人差指でユキハルの心臓をついた。
バシュン、と音がして、ユキハルは消えた。
なんともあっけない最期だった。
「さて、これで我の仕事は終わった」
「待ってください」
俺は叫んだ。
「エルマを、エルマを元に戻してはくれないのですか?」
ミカエルは首を振った。
「それは自分で出てこなければならない呪いなんだ。さっき迷路をできるだけ整理しておいた。声をかけ続けるんだな。そうしたら戻ってくるかもしれない」
ミカエルはそれだけ言って、消えた。




