第37話 指輪と履行
彼女たちの盾になり、死を覚悟した瞬間指輪は割れ、目の前に結界のようなものが展開したが、バリスタから放たれた矢はそれを突き破り、俺の腹に突き刺さった、胸に突き刺さった。
パキン。
右手で何かが壊れた。俺は薄れる意識の中でそれを見た。指輪だ。サヨからもらった指輪が壊れてしまった。指輪は光を放って、俺の体を覆う。
矢が消え去り、大きな穴があいた俺の体は徐々に修復されていく、癒やされていく。俺の体は元に戻る。まるであの男のように。
エルマたちが俺を覗き込んでいる。
「ハル!!!」
三人に一度に抱きつかれて俺は咳き込んだ。不思議と血は吹き出さなかった。
「へえ、知らない魔法だ」
男の声が切り落とされたオートマタの頭から聞こえた。
「いのちびろ……」
エルマたちは激昂し、オートマタのすべてを破壊した。
「殺してやる!!!! 絶対に殺す!!!」
首だけではない。あらゆる関節を切り落とし、切り口から剣を突き刺して、体を完全に破壊した。
俺はステイシーや他の騎士達とともにその姿をただ呆然と見ていた。
◇
危機のあと、俺たちは城に転移した。カミラが角をはやしたまま転移してしまったので魔族が現れたと城内は一時騒然となったが味方だとわかると王は安堵し、会議室への道を開けた。
ステイシーは俺に謝り続けていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。死んで償うからゆるして。あの時私がこの国を脅すためにどうしたらいいか聞かれた時に死を選ぶべきだった」
「やめろ。ステイシーのせいじゃない。俺がガキだっただけだ。あの時気づくべきだったんだ」
俺が奴隷兵士になる前、最後にソーリッジの城に出向いたのは12歳の終わりの頃だった。城の中は物々しい雰囲気になっていて、いくら待ってもステイシーはやってこなかった。
それから俺は何度か赴いて待ち続けていたが、一向に現れず、
「嫌われたかと思ったんだ」
「ちがう! そんなわけない! 私は……」
「思い出話はいい、七光、お前には聞きたいことが山程ある」
カミラはステイシーを睨みつけて言った。
「あのオートマタはなんだ。どこから手に入れた。アレは……アレを開発したのは魔族だぞ」
ステイシーは首を振った。
「いいえそれは正しくありません。初めに作ったのは人間です。歴史書に記述があります。5000年前、ドラゴンが破壊した文明がオートマタを作りました」
エルマは机を叩き立ち上がって言った。
「まさか、それもあなたが提案したの? あのクソ男に!」
ステイシーは涙を流してうつむき首を振った。
「いいえ。私は改造し、出撃させるよう無理やり提案させられただけです。あの男は選択を迫ります。死ぬか、死んだように生きるか、です。私は怖かった。怖かったんです」
ステイシーは大声を上げて泣き出した。
「魔族の方たちはオートマタを完成させられなかった。でも、あの男にある方が提案したのです。私にオートマタを作成させろと。私はあらゆる本を読み漁り、ついに完成させました。いえ、完成させてしまいました」
「それはオレグというトカゲの魔族か?」
「いいえ。私は彼から研究を引き継いだだけです」
「では誰が!!」
カミラはステイシーの胸ぐらを掴んだ。
「おい、やめろカミラ!」
「ハル! これは魔族の問題だ口出しするな! 答えろ七光! 誰があの男に提案した!」
ステイシーはある人物の名前を口にした。
カミラは手を離すと放心したように椅子に座り込んだ。
「ハル。ごめん。私も悪かった。ねえ、城に転移させてくれない? 魔族の城に」
「いいけど、どうし……」
「早く!」
カミラは俺を睨んだ。
俺は彼女の手を取って転移した。
◇
ドラゴンの国、女王サヨの謁見室、兼会議室で、皆が一様に神妙な面持ちをしていた。
「指輪が壊れました。その意味がわかりますね」
サヨは立ち上がり、拳を握りしめて言った。
「本来ならば壊れても、その装備者は傷つかないはずです、しかし今回は違った。指輪は特級ポーションの役目を果たしました。損壊レベルが桁違いだったのです。その意味がわかりますね」
サヨの目は燃えるように赤く光った。側近たちは皆頭を垂れて話を聞いている。
「約束の時は来ました。私達は盟約に乗っ取って兵を動かします! かつて、人間と交わした約束通り、鎖国を解除し、我々は人間を、大陸を救います!!」
側近たちは頭を上げた。
「準備を!」
「はっ!!!!!!!」




