第36話 盾
目の前が真っ赤に染まった。この男は殺さないといけない。
俺は転移すると、やつの腕を切り落とした。ミスリルの剣が落ちる。
ステイシーを抱きかかえると更に転移して、男から距離をとった。
切り落とされたやつの腕はすぐにもとに戻ってしまう。
「あーあ、つまんない」
男はそう言うと、両腕を上げた。まるで何も持っていないことをアピールするように。
いつの間にかエルマとカミラが駆け出している。
「ふたりともやめろ!」
「あいつはハルを陥れた張本人だよ。殺してやる」
「魔法で灰にしてやる」
男は動かない。カミラの魔法が発動する。
男は塵になり、もとに戻る。
何度も、何度も、彼の体はもとに戻る。
「あきた」
「逃げて!!」
ステイシーが叫ぶのと同時に、クローゼットの周りに大量の大砲が出現した。
エルマたちはまだ、男の元へたどり着いていない。
阻止できない。
大砲は魔法兵器だ、奇妙な高い音がして、紫色に筒の中が光る。
俺は転移して、二人を回収した。
直後、二人のいた場所めがけて紫色の光線が発射された。
カミラがいた場所に向けられた光線は空を突き抜け、雲に穴を開けた。
エルマがいた場所は、死体が溶けてなくなってしまっていた。
「その転移スキルって厄介だね」
男はローブをバサバサと鳴らして揺り動かしながら言った。
「まあ、今日はもういいかな。帰る」
男はクローゼットの扉を開いた。
「まて!」
エルマは叫んだが、男は中に入り、とびらを閉めた。
クローゼットは消えた。
俺たちはただ呆然とその場所を見ていた。
ステイシーが俺を見上げてボロボロと涙をこぼした。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「ステイシーのせいじゃない」
俺は彼女の頭をなでた。
彼女から聞きたいことはたくさんある。
でも今は再会を祝福しよう。
俺たちは後ろで待つ騎士たちのもとにあるき出した。
カミラを先頭にエルマが続く。ステイシーは俺にすがりつくようにしてずっと謝っている。
「ステイシー歩きづらい」
「ねえそれずるい、私も」
そう言ってカミラとエルマが振り返った。
その後ろ
空間が歪む。
突然、巨大な弓が2つ出現する。ソーリッジ王国の城でみたあの巨大なバリスタだ。
地面に転がっていたオートマタの一人が声を出す。
「死ねよ」
バリスタが発射される。巨大な矢がエルマとカミラを襲う。
だめだ。
転移は一度しかできない。
俺は転移をして、盾になる。
2つの矢が俺の体を貫く。左の胸と右の腹に巨大な矢が突き刺さっている。
血を吐く。
「ハル!!!!!!!」
意識が遠のく。




