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俺の幼馴染達が最強すぎて俺にはどうすることもできないのだが  作者: 嵐山 紙切
第4章 一国の姫

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第28話 静けさ 

「ハル、何その女」


 エルマの表情はない。むしろ少し笑っていると言ってもいい。しかし、その目に色がない。理性の光が消えてしまっている。


 店員はなにか対応するわけでもなく、ほとんど見もせずに下がっていった。


 カミラは口を拭うと椅子を動かして、俺の太ももに触り、肩に頭をおいた。


「あ、ずるい」


 リリスもそう言って、俺に抱きついてくる。

 止めてほしい。

 エルマの目に色が映る。それは徐々に力を帯びてくる。


「ハル? どこにも行かないって約束したよね。ハル?」

「いや、これは」

「なに?」

「偶然会って……それで……」


 俺が言い訳を考えているのに、カミラはあろうことか、俺の唇を奪うと、ニヤリと笑ってエルマをみた。


「なっ!」


 エルマの顔が一瞬真っ赤に染まると、その後、真っ白になった。


「ハルぅこの前の続きしようよぉ」


 太ももの内側を指で沿って、カミラは俺の股の間に手を添えた。


「やめろ!」


 俺は手をどけようとしたが、眷属にされたからだろうか、いきなり腕に力が入らなくなった。


「いいでしょぉ? 何なら今から宿に行ってもいいんだよ」


 妖艶な笑みを浮かべて俺に言う。まるでエルマがそこに居ないかのように。


 エルマは剣を抜き、ズカズカと近づくと、カミラの喉元に剣を突き出した。

 周りの客が悲鳴をあげる。


「私、ここにいるんだけどこのクソアマ」

「知ってるよ、監禁女のラプンツェル」


 エルマははっとして、眉間にしわを寄せた。顔がどす黒くなる。


「あんた、吸血鬼のカミラね」

「吸血鬼なんかと一緒にしてほしくない。まあ、血は美味しいけどね」


 カミラは俺の首元に噛み付いた。血を吸うと翼が伸びてしまうからか、ひと舐めしただけだったが。くすくすとカミラは笑う。


 エルマは俺を睨んだ。


「ハル。ハル? あなたどっちを選ぶの? 当然私よね? ずっと一緒に過ごしてきたもの。たくさん愛し合ったもの。そうだよね?」

「私達だって愛し合ったわよね」


 カミラは余裕の表情でエルマにそういった。

 エルマは目を見開いた。口元がわなないて何かを言おうとしているが言葉にならない。


「足だって治してあげた。魔力も魔術も教えてあげた」

 カミラは続ける。

「あなたが何をしてあげたっていうの」


 俺は立ち上がった。


「カミラやめろ」

 俺はカミラを見下ろして睨んだ。

「だってホントのことじゃない? ね?」


 エルマはうつむいている。

 そして、涙を流した。


「もういい。もういいよハル。私何もできないもんね。ごめんねハル」

「エルマ、俺は!」


 言う前に彼女は出ていってしまった。




「カミラ! なんてこと言うんだ!」


 リリスは動揺して俺とカミラの顔を行ったり着たりしている。


「早く追いなさい」

「は?」

「エルマのことを追いかけなさいって言ってんの。初めてを奪われたからいじめちゃったけど、やりすぎちゃった。行ってあげて」

「……わかった」


 俺は駆け出した。


 エルマはすぐに見つかった。

 広間の噴水でうずくまって泣いていた。


「エルマ」

「近づかないで。あの女のほうがいいんでしょ! 私何もできないもんね!」

「違う!」


 俺はそう行ってエルマの手を取り、転移した。


 あの場所。


 いつもの待ち合わせ場所。


 幼少時代の木の下。

 森の近くにある一本の木。

 俺たちはここで待ち合わせ、村に行ったり、森の中を探索したりして遊んでいた。

 

「エルマ。エルマは俺を助けてくれた。俺を守ってくれた。俺の罪を許してくれた。何もしてないわけない。俺はたくさんエルマにもらってるよ。今返そうと必死になってる」

「でもあの女が」

「足はもらったし魔力ももらったけど、でもエルマが救ってくれなきゃ俺はずっと死んだように奴隷のままだった。罪もないひとを殺し続けてた。奴隷から開放されても罪で自分を殺してた」


 俺はエルマを抱きしめた。


「感謝してる。ほんとだよ。ありがとう」


 エルマは俺の肩を泣き濡らした。声を上げて泣いていた。


「私、私最近何もできてないって。剣術も教えられない、魔術も教えられない。ただ家に住んでもらって、それしかできなくて辛かった」


 俺も涙を流していた。


「エルマが居たから俺がいるんだよ。俺はエルマに恩返ししたくて頑張ってるんだ」


 エルマの頭を撫でる。


「愛してるよエルマ。あのときキスをしてくれてありがとう。俺の目を開いてくれてありがとう」


 俺はエルマにキスをした。

 エルマは一瞬驚いて体を震わせたが、すぐにふっと力をぬいて、俺に体を預けた。


「ねえ、あの女としたって、愛し合ったってホント?」


 エルマは俺を見上げた。その目は……歪んではいなかった。


「……本当だよ、ごめん。俺は……あのとき……」

 エルマは首を振った。

「違うの、言い訳を聞きたかったんじゃない。一度謝ってほしかっただけ。ハルからしたわけじゃないんでしょ?」


 俺は肯く。


「私も最初は無理やりしちゃったもん」


 エルマはそう言うと俺に口づけをした。


「ハル、愛してるよ。ねえ、お願い。……したい。愛し合いたい。確かめあいたいの。お願い」


 俺はエルマをギュッと抱きしめた。


「わかった」


 俺は俺の部屋に転移した。

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