第26話 建国記念の祭
俺が開放されて、精神的に病んで、修行をして、色々やっていたら2ヶ月が経っていた。
その日、俺はエルマによって王都に連れて行かれていた。なんでも建国記念の祭りがあるそうで、国へ貢献したものへの表彰も兼ねているそうだ。
祭りなど収穫祭しか知らない俺はその規模の大きさに唖然とした。出店が至るところに点在し、大声を上げて宣伝をしている。国旗を模した飴なども売っていた。エルマに聞くと魔法で作っているらしい。見ているだけで面白い。
城に向かう途中、俺は久しぶりにエルマのパーティと再会した。
もちろんアゼルもいた。俺は経緯を話して深々と謝罪した。
「必ず村を復興させます。金もエルマに返します」
アゼルはため息を吐いて、エルマを見て、それから「わかったよ」といった。
城はでかい。パーティについて行って門の前まで行くとエルマが振り返った。
俺は入れないらしい。そもそも俺はどちらかと言うと国に対して危害を加えた側である。入れなくて当然だ。
「どっか行っちゃだめだからね」
そう言うと、エルマたちは門の中へ入っていった。
そう言われても目移りしてしまう。13歳で奴隷に落ちた俺にとって王都での祭りは興味津々、エルマにいくらか金をもらっているので(昼飯代銀貨1枚)、どこかいこう。そう思ってブラブラとしていたら見たことのある顔がいた。
「お嬢ちゃんどこから来たんだい?」
「俺が案内してやるよ」
その少女は冒険者と盗賊の中間、どちらかと言うと盗賊よりの男たちに囲まれていた。少女はペロペロと長い舌で国旗の飴をなめながら男たちに興味がなさそうにしている。
俺と目が合う。
その白髪の少女は、瞬間、男たちを跳ね飛ばして俺に駆け寄ってきた。
なんでここにいる?
「お兄ちゃん!!」
「リリー! なんでここにいるんだ!」
「お姉ちゃんについてきた」
じゃあカミラも来てるのか。
リリスは羽もしまって普通の、いや、美少女に見える。
「お兄ちゃんお兄ちゃん。えへへ、お姉ちゃんの言ってたとおりだあ。もっと好きになっちゃう」
腹にグリグリと頭を擦り付けるリリス。
跳ね飛ばされた男たちが俺を取り囲む。執着するくらいにはリリスは美人だ。というか魅了魔法でも使ったんじゃないのか?
「リリー魅了魔法使ったか?」
「お金欲しかったから」
「ばか」
ぺろりと真っ赤な舌を出す彼女。
「早く解きなよ」
「解いたけどついてくるんだもん」
俺は男の一人に胸ぐらを掴まれた。若い男で髪はよく手入れされていたが、にきび面で鼻がでかい。
「俺が先にこの子に声をかけてたんだよ、邪魔すんじゃねぇ」
ああ、これは相当後遺症がのこっている。
「この子は僕の妹なんです」
「彼女」リリスが口を挟んだ。
「妹なんですいませんけど失礼します」
リリスは頬を膨らまして俺を見上げる。
「知らねえよそんなこと! とっととその娘をはなせ!」
そう言ってにきびの男は俺を殴ろうとした。丁度いいので戦闘で魔力を身体強化以外に使ってみよう。
そう思って、俺は男を吹き飛ばすイメージをした。
その瞬間、俺は思い出した。
訓練では身長以上もある岩ばかり飛ばしていた。今俺は同じ力を使っている。
ということは?
まずい!!
しかしときすでに遅い。
にきびの男、どころか俺を取り囲んでいた人間すべてが飛んでいった。10メートルくらい。
直前に力を押さえたのが幸いしたらしい。あのまま力を使っていたら壁に叩きつけられてジャムみたくなっていたかもしれない。
恐ろしい。
魔族の力の使い方とはかくも乱暴なものなのか、と自分で使って思うのであった。
「お兄ちゃん行こうか」
リリスは何事もなかったかのようにそう言った。
騒ぎを聞きつけて騎士がやってくる前に俺はリリスを背負って走り出した。




