第25話 魔力と剣術の習得
カミラが技術室に入ってきたのはそれからしばらくしてからだった。俺は用意されていた服に着替えていた。どことなくカミラの着ているものと似ている。
「おお、さすがハル生きていたんだね」
「お前は俺をなんだと思っているんだ」
「前に試したやつは甘ったれた貴族だったんだよ。ハルは今までの経験から絶対耐えられると思ってたんだ。ああもうホント好き。すごくいい魔力だよ」
カミラは俺に抱きつくと首に噛み付いた。ごくごくと喉を鳴らす音がする。
「おいあんまり吸ったら死ぬ」
「あ、ごめん、あんまり美味しいものだからつい」
カミラは口を拭ってそういった。
「流石だよハル。いい魔力だ。魔族と違って透き通ってるのに力強くて、なのに人間臭さがまったくない」
「それはほとんどあの恐ろしい薬のせいだろう」
「いいや、ハルの生来のものだよ。ああほんときれい。ね、そう思うでしょ、オレグ」
「はい、そのとおりでございます。生来のもので間違いありません。それに数値も透明度も適応力もずば抜けています。魔族でも上位に入るでしょう」
「ほらね。じゃあ手をとって」
「なにをする?」
「魔力の循環を感じてほしいの魔法を使う第一歩としてね」
俺はカミラの両手を握った。冷たかった彼女の両手が暖かく感じて、右腕から流れて体全体をめぐり、左手から出ていく感触がある。
手を離すと、俺は両手を握ったり開いたりした。
「これが魔力、どう?」
「んー、言葉では表現できない」
「いまはね、徐々にわかってくると思う」
「ふうん」
「今日は疲れたでしょうからかえっていいよ。寝ないとほんとに死んじゃいそうな顔してるから。魔術についてはまた今度教えてあげる」
カミラは技術室から出ていった。
俺はトカゲ男オレグに尋ねた。
「また飲めなんて言わないですよね」
「いいませんよ。あれは一生のうち摂取できる量という意味での致死量なので」
「じゃあ少量ずつ飲めばよかったのでは?」
「あの地獄の苦しみを何度も味わいたいですか?」
俺は首を振ると礼を言って、転移した。
その夜はというか、転移した瞬間めまいがして、俺はベッドに倒れると本当に死んだように眠った。
気づいたら朝だった。
◇
剣術と魔術を鍛えること一ヶ月。ある程度形になってきたようにおもう。
その間、エルマにつきあわされてやれ新しくできた店に行こうだの何だのと大変だった。
それで、俺は今、ドラゴン族の闘技場に来ている。
道場での訓練はすでに終わり、今はより実践的な訓練へと変わっていた。相手は武士の中でも上位に位置する竜族で真っ黒な鎧を着ていた。
「では、初め!!」
将軍キヨミが宣言すると、黒武士は消えた。
魔力が右上からの漸近を感知する。
剣を振る。
俺の力では凌げない。
そらす。
刀の角度を変えて、斬撃が木刀に沿って地面に落ちていくように調整する。
彼の木刀が地面ギリギリで止まる。
刃が返る。
切り上げ?
いや、足を狙っている!
俺はギリギリで右足を振り上げて避ける。
後方に体勢が崩れる。
「もらったぁあああ!!」
黒武士が叫び、振り上げた木刀が降ろされる。
クソ、
止むを得ない。
俺は魔術を使い、身体強化をする。
この左足だけを地面に付き後方に倒れていく状況で、体を左にひねる。
左足を強化して、地面を蹴る。
体は完全に左方向に反転し、武士の斬撃は背中をかすめる。
体が反転したまま、更に地面を蹴って、ギュンと横方向に回転しながら宙を舞い、距離を取る。
俺がこの一ヶ月で学んだこと。
それは刀の支配圏、斬撃領域である。
互いの領域が重なれば、それすなわち、剣がぶつかり合うことを意味している。
そして相手の領域に踏み込めば最後、真っ二つに体を切断される。
今、俺達の距離は領域同士がギリギリ触れていない状態だ。
かなり遠く感じる。
しかし、竜族の脚力を持ってすれば、この距離など一瞬で詰められる。それで何度領域にはいってしまい、横っ腹を殴られたかわからない。
領域は武術に長けた人間がようやく理解できる空間である。ではなぜ、一ヶ月しか修行をしていない俺がその領域の概念を理解しているか。
それは魔力のおかげだ。魔力による擬似的な領域。それが今の俺の精一杯だ。
「かなり無理して避けたな」
武士が言う。
「ええ、腰をおかしくするかと思いました」
俺は木刀を構える。
意識を集中する。
速度向上。
俺の斬撃範囲が一瞬で展開する。
黒騎士は自分がその領域に入り込んでしまったことを理解した。
防御の構え。逃げない。
武士だ。
しかし、俺は武士じゃない。
俺は駆ける。
一瞬で黒武士の目の前に近づく。
刀の構えは下段、故に切り上げるだろうと彼は予測する。
俺は切り上げ、
転移する。
彼の背中に。
切り上げた木刀は武士の脇腹を思い切り打った。
武士は倒れ込むと痛みに堪えていった。
「クソ、卑怯者! 武士道精神に反するぞ」
「俺は武士じゃないですよ。それになんとしてでも勝たなければならない状況ってのがあるのはわかるでしょう」
武士はまた悪態をついたが、最後には認めた。
キヨミは大声で笑った。
「基本は身についたようだな、まあ最後のは目をつむろう」
そう言うと俺の右肩に拳を当てた。
「合格だ。あとは実践で経験を積むんだな」
「ありがとうございました」
俺は頭を下げた。




