第24話 魔力
今日はカミラのところで魔術を教わる。
『カミラそっちいっていいか?』
『ええ、ええ』
と二つ返事。
眷属になったからだろうかすぐにカミラのもとに転移することができた。
カミラはいつもどおり白髪の美人で真っ黒の服を着ていた。そばには俺の足を取り付けたトカゲみたいな技術者が居た。
「魔術を教わりたいって言ってたでしょ」
俺は肯く。
「まずはあなたの魔力量を測らないといけなくてね」
「そこに手をおいてください」
技術者は言う。金属でできた丸い球体に両手を置く。ガラスの板のようなものに数値やらいろいろなものが映って、それからトカゲ男は首を振った。
「やはりだめですね」
「そうか、じゃあ例のものを」
「え? 何がだめか説明してくれ。おい行くなカミラ」
「頑張って、応援してる」
そう言ってカミラは技術室を出ていった。
「どういうことですか?」
俺はトカゲ技術者に尋ねた。
「あー、あー大変言いにくいのですが、貴方様の魔力は平均以下でして、魔法を使うには適さないのです」
「……そうか」
足の魔力増幅装置でも感覚を鋭利にさせるくらいしかできないらしい。簡単な身体強化も難しいとのこと。
「では帰ります。すみません、それがわかっただけでも十分です」
「いえ、まってください。実は魔力を増幅する方法があるのです。カミラ様にはそれを行うようにと指示されておりまして」
トカゲ男はそういったあと憐憫の目を俺に向けた。どうしてそんな病人をみるような目で俺をみるんだ?
いやちがう、俺は恐れた。この目はこれから、俺がひどい目にあうのを哀れんでいるめだ。
俺はしかし、背に腹は代えられないとため息をついて、それから尋ねた。
「どういう方法ですか?」
「これを飲んでもらいます」
彼が取り出したのはコップに入った、紫色の発光する液体だった。
「飲むとどうなりますか?」
「魔力が上がります」
「それ以外には?」
「……」
トカゲ男は言い渋ったが、最後には口を開いた。
「全身に激烈な痛み、最悪の場合脳と心臓の破壊、内臓の破裂、皮膚の乖離。要するに拷問を受けたような痛みが走ります」
俺はしばらく黙っていた。
「……ですが、それは大量に摂取した場合の話でして、その量であれば……あー、大丈夫かと」
「本当に?」
「致死量ギリギリですが」
絶対大丈夫じゃない。
「麻酔とかって……」
「意味ないですね」
グラスに入った紫色の液体の中には何か知らないが小さな虫みたいなものが何匹か泳いでいる。発光は一定ではなくゆらゆらと揺れる炎の光に似ている。
俺は息を吸って、吐いて、意を決し一気に飲み込んだ。
ひどい味だ甘くて酸っぱいくせに苦い、腐りきったりんご、ドブネズミの生肉、カエルの目玉をグジャグジャとかき混ぜたような味がする。そんなものを食べたことはないけれどきっとそんな味が……s
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
心臓の動きが止まる、いや異常なほどに緩慢になる。手足が震え力が入らなくなり、俺は倒れる。地面にぶつかった衝撃よりも体の中を這い回る痛みに耐えられない。食い散らかされては回復し、食い散らかされては回復している、そんなイメージが湧くほど、極度の痛みと無感覚が交互に訪れる。背骨から脳に向けて蛇が伝っていき、脳に噛み付いた。目玉が飛び出しそうになる。
汗が吹き出し、泡を吹き、涙を流して、失禁する。
俺は痙攣し無様な姿を晒しているだろうが、恥とか屈辱とか、そんなものがどうでも良くなり、ただ、感情は生きたいと楽になりたいを繰り返している。
どれだけの時間が経ったのだろう。俺はゼイゼイと息を吐いて横たわっていた。全身が熱く、濡れている。どこからなんの液体が出てそうなっているのかは理解している。
「生きていらっしゃいますか」
「……は……い」
くぐもった声で俺は答えた。
いきているいきているいきている
呼吸をしている。心臓の音が正確に時を刻んでいる。
相当な時間を要したが、俺はなんとか体を支えられながら起き上がった。
しばらくして後、魔力の測定をもう一度する。
トカゲ男は何度も肯いていた。
「いやいや、これは素晴らしい結果ですね。あの量を飲んで生きていた上に精神崩壊しなかった人間はおそらくあなたが初でしょう。良い実験資料になりますよ、あはは、ありがとうございます」
俺は地面に座り込んだ。これで魔力が上がっていないなんて言ったらこの技術者をぶん殴っていたところだ。
「前同じ量で実験したときは発狂して壊れてしまいましたからねぇ。まあ、カミラ様はそれはそれでいいとおっしゃっておりましたが」
ゾッとした。置物でも生きていればそれでいいのか。
「とにかく実験は成功ですよ。これで十分に兵器として魔法が使えるでしょう」
嬉々として、トカゲはいった。




