表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/47

第2話 スキルを失う

 兵士は俺を馬車の中に入れ、首と手に鎖をつけた。鎖はすでに乗っている若い村人たちにつながっていて、その先端は馬車の壁に取り付けられていた。

 馬車の中は泣き声であふれていた。隣に住んでいた三つ年下の少女が顎を上げて泣いていた。服が真っ赤に染まっていて、両親に最後まで縋っていたのだろうと思った。

 俺は頭を抱えて、目の前で無残に殺された両親を思ったが、それ以上に、この先自分がどうなるのかそれが怖かった。



「おい、うるさくてかなわん。黙らせろ」ローブの男がブロンドの兵士に命令する声がした。兵士が馬車に乗り込むと泣き声は悲鳴に変わった。俺のとなりに座って声高く叫ぶ少女の髪をつかむと、兵士は剣を引き抜いた。



 少女の顔が恐怖に染まった。



「ごめんなさい! ごめんなさい!」少女は謝りつづけたが、兵士の表情に変化はない。意思にも変化はなかった。



 兵士は少女の喉元を貫いた。ごめんなさいの言葉がおぼれているような発声で聞こえた気がした。口元が何度か同じ言葉を繰り返していたが、すでに声にはならない。



 兵士は一度剣を引き抜き、改めて首を切り落とすと馬車の真ん中に少女の首を置いた。

 生首の目は見開かれ、顔は恐怖にゆがんでいた。頭を失った少女の体が倒れて、馬車の床が血で染まった。



 兵士は俺たちをじっと見つめた。馬車の中にいた俺たちは兵士から目をそらしていた。物音ひとつ立てなかった。呼吸すらまともにできなかった。



 次にさらし首にされるのが自分にならないように必死だった。

 兵士はしばらくすると、馬車から降り、戸を閉めた。

 馬車がひどく揺れながら動き出した。





 それからは誰も音を立てなかった。生首が俺の足元まで転がってきて悲鳴を上げそうになった。馬車のなかは血と汗と、尿のにおいが充満していた。

 俺たちはまるで家畜みたいに運ばれていった。

 




 馬車が止まる。外で声がして目的地に着いたのだと知る。

 ブロンドの兵士が乗り込んできた。生首を路傍の石のように蹴って、馬車の奥に進み、鎖を取り外した。



「降りろ」抑揚を欠いた低い声で兵士は言った。

 俺たちは鎖を引きずって歩いた。兵士たちがその感情のない目で俺たちを見張っていた。



 着いたのは見たこともない教会だった。巨大で、壁がどこまでも続いているように見えた。村に一番近い街と同じくらい大きいように思えた。





 ローブの男の後ろを地面を見ながら歩いて行った。



 俺たちは教会の薄暗い部屋に入れられた。俺たちはまっすぐ並んで、膝をついた。

 高い場所に窓があり、そこからわずかに曇った空が見えた。冬でもないのに暖炉に火がくべられていて、その明かりが地面をゆらゆらと照らしていた。



 ローブの司祭は俺たちを睥睨し叫んだ。



「お前たちは今からこの教会の奴隷となった。感謝するがいい、これは神の御導きである」



 司祭は隣にいるローブを着た巨漢に指示を出した。巨漢が暖炉に近づき、筋肉の塊のような腕を伸ばして真っ赤に焼けた鉄の印を取りあげ歩いてきた。



 奴は低く響く声で言う。

「ドレークだ。名前を覚えろ。これからは俺がお前たちの主人だ」

 男は焼き印を目の前で膝をついて座る若者の肩に押し付けた。

「あああああ!!!!」

 若者は叫んだ。不快なにおいが鼻をついた。人間を焼くにおいだ。ドレークが何かをつぶやき、焼き印が紫色に光を変える。



「奴隷は魔法契約だ。許可なく逃げようとすれば、魔法がお前たちを殺す」



 俺の番が近づくにつれて身を硬くした。ドレークが鉄の印を俺の前にぶら下げた。

「お前の番だ」

 俺は歯を食いしばったが、肩に判を押された瞬間、悲鳴を上げた。

 全身から汗が吹き出して、地面に転がった。肩が胸のあたりまでまだ焼けるように熱い。涙がとめどなくあふれた。

 寝転がる俺にドレークが気づく。腹に衝撃。一瞬呼吸が止まる。



「誰が寝ていいと言った! 座れ!」



 俺は必死に空気を探す。全身が冷えて、一気にどっと熱くなる。汗が噴き出す。無理やり体を起こして、膝立ちになる。



「おい、すぐに壊すなよ」司祭がドレークに言った。

「しっかり調教しますよ」ドレークはにやりと笑った。





 俺たちは別の部屋に通された。黒いローブをかぶった老人が並んでいた。

「嫌だ! いやだ! やめてください!」

 俺は叫んでいた。体は石の台の上に縛り付けられている。俺の周りを教団員たちが囲み、その一人、黒いローブをかぶった老人がナイフを持って俺に近づく。

「これは、悪魔との契約でお前にもたらされた、忌まわしきスキルを消し去る儀式だといっておろう。安心するがいい、背中に入れ墨を掘ればスキルは消える。ちと痛むがな」

 老人はナイフを俺の背に突き立て、入れ墨を掘り始めた。

「ああああああああ!!!!!」

 こうして俺はスキルを完全に失った。





 子供で、何もできない、何の能力もない奴隷に成り下がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ