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俺の幼馴染達が最強すぎて俺にはどうすることもできないのだが  作者: 嵐山 紙切
第2章 Sランク冒険者と魔王

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第16話 無意識とカエル

ここから書き換えてます。不評だったので寝取られ表現はカットしてあります。他にもだいぶ内容が変わっています。申し訳ないです。

 数日の間、俺は罪のことばかり考えていた。ベッドに横になって目をつぶると、記憶が鮮明に浮かんでは消えた。子供を誘拐して、大人を殺す。血しぶきと外れた肉塊。死のにおい。

 何度もトイレに駆け込んでは嘔吐した。





 エルマは行為に及ぶことをやめた。


「いいよ、するよ」俺は隣で眠る彼女に声をかけたが、首を振った。

「んーん。いい」それから彼女はしばらく何かを考えるそぶりを見せた。

「ねえ。私のこと嫌い?」

「嫌いじゃないよ」

「最近あんまり話してくれないじゃん。アゼルのことなら大丈夫だよ? 近づけさせないから」


 俺は首を振った。


 エルマは俺を抱きしめた。ローブの上からでも暖かさが伝わってきたが、俺の心は冷えたままだった。彼女はきっと理解してくれない。カミラだってそうだろう。

 その気持ちが隅のほうにこびりついていて、俺は自分の殻に閉じこもった。


 夢の中かもしれない。

 それとも幻覚?

 とにかく現実から俺は引き剥がされて『殻の中』という世界へと閉じこもった。



 殻の中は血の匂いがした。記憶が刃になって俺の体を傷つけて、そこからあふれた血が、殻の内側を赤く染めていた。

 そこにはもう一人の俺がいた。『無意識の俺』だと俺は思った。裸で膝を抱えて座り、右脚がなく、体中傷だらけだった。


 彼は俺のことを見上げた。


「俺はお前が記憶を取り戻す前のお前だ。命令に従ってたくさん殺してきたお前だ。従うのは楽だっただろ? 全部俺に任せれば楽だっただろ?」彼はじっと俺のことを見ていた。俺は突き刺さる記憶に呻いた。


「苦しめ。自分のしてしまったことに。俺が背負ってきた罪に」彼の声が響く。暗く低く殻の中に反響する。

「アゼルは殺してくれなかったね。せっかく煽るの手伝ってあげたのに」


 『無意識の俺』は立ち上がった。脚がないのに、まるであるかのように歩いた。宙に浮いていた。俺は後ずさろうとしたがそこには壁があった。


「次はだれに罰してもらおうか。カミラあたりがいいかなぁ。エルマと赤ちゃん作っちゃえばきっと殺してくれるよね」


 そう言うと『無意識の俺』は肥大した。皮膚が避けて筋肉が膨張し、ぼたぼたと体液が零れ落ちた。俺は恐怖した。何度も壁を叩いたが殻は割れなかった。幻覚も夢も覚めなかった。これは現実じゃないのに。元の世界に戻れない。


 すでに俺の殻ではない。俺の幻覚じゃない。悟ったときにはすでに遅かった。


 『無意識の俺』はカエルの姿になった。


「俺はもう疲れたんだ。俺の場所代わってくれよ 」それは、エリオットの声だった。


 俺は悲鳴を上げた。

 声は声にならない。まるで水の中にいるかのように、それは耳元で反響するだけの波になった。

 カエルは瞬間、舌を出して、俺をばくりと飲み込んだ。

 薄れゆく意識の中でカエルの声が聞こえる。


「さあ、罪を精算しよう」


 世界が真っ暗になった。





 翌日。目が覚めるとすでにエルマはいなかった。俺は立ち上がると息を吸い込んだ。義足の脚は木の棒よりずっと動きやすかった。俺は無表情を張り付けたまま、部屋を出た。


 食事の席に行くと、メイドが俺を睨んだ。


「おはようございます」俺が言うと、彼女はびくっと体を硬直させて後ずさった。

「誰? あなたは……あなたはヘンリーではない」

「ああ、名前憶えてたんですか? 光栄ですね。俺は俺ですよ」


 俺は立ち上がるとメイドに近づいた。彼女はどこにしまっていたのかナイフを取り出すと俺の目の前に突き出した。


「下がってください」彼女は震えていた。目の端に涙を浮かべていた。そんなに怖いかなぁ。

「ねえ、名前なんて言うんですか。仲良くなりましょうよ。ね」


 俺はナイフをつかんで微笑んだ。右手からは血があふれて、それは手首を伝って服を濡らした。ぽたぽたと絨毯に血が落ちる。


 メイドはナイフから手をはなした。飛び跳ねるように後ずさったと言ってもいい。俺はナイフを持ち換えて、自分の手を見た。皮膚がぱっくりと口を開けていた。再度、メイドに尋ねた。


「名前教えてくださ……」

「来ないでください! あの日はすいませんでした! 謝ります! もう二度とあんなことはしません! だから! 来ないでください!」壁に背をつけてメイドは懇願した。

「いいじゃないですか。仲良くなりましょうよ」


 俺は血のあふれる右手で彼女の頬に触れた。真っ白になったメイドの顔にべったりと紅がつく。口は悲鳴の形を作りながら、窒息したように薄い呼吸音しか聞こえない。


 目を見開いたまま彼女は失禁した。


 絨毯の色が濃くなっていく。スカートが濡れて内側にたわみ、脚の形が見える。


「あーあ」俺は両手をあげて彼女から離れた。


 メイドは涙を流す。紅が涙で切り開かれて線を作る。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 彼女は両手を組んで俺を見ながら呟き続けた。いや、その目は焦点があっていない。何も見ていない。


「おーい」俺は真っ赤な手をメイドの前で振ったが、彼女は瞬き一つせず、謝罪の言葉をくりかえす。

「名前聞いただけなのになぁ」


 俺はテーブルに着くと、朝食を取り始めた。パンは血の味がした。あまりに出血が収まらないので、腰ひもをとって手に巻いて、食事は左手でとることに決めた。

 カチャカチャと食器が鳴る音とメイドのごめんなさいだけが聞こえていた。


 食事を終えて、メイドのそばによると、


「ごちそうさまでした」


 俺は言って彼女の鼻をつついた。メイドは悲鳴を上げてへたり込んだ。ますますスカートに液体が染みた。


「掃除しておくんだよ」


 俺が言うと、メイドは小さく何度も肯いていた。





 そのあとは部屋で過ごした。村に行ってもよかったがやることも思いつかなかったし、下手をすれば村人を殺してしまいそうだった。俺は村人を殺すつもりなんてないのに。死んだはずのドレイク様の声が殺せと叫びそうだった。



 俺は目を閉じて『殻の中』に入っていく。夢の中、現実の中まで俺のものだ。


 ヘンリーは殻の壁に貼り付いて意識を失っていた。磔刑にかけられたように両手を伸ばして、壁から伸びたツタのような赤いものに覆われている。

 俺はメイドにしたように目の前で手を振った。呼吸で体が動くばかり。


「おきろよー」

 俺はエリオットの声で言った。どうやらここではこの声になってしまうらしい。目の前で指を鳴らしたが目覚める気配はない。


「起きろ!」俺はヘンリーの腹に拳を入れた。奴はうめいて目を覚ます。

「おはようヘンリー。君に頼みたいことがあるんだ」

「なんだこれ!」ヘンリーはもがいていたがはがれる様子はない。

「落ち着けよ。な。今からエルマが帰ってくるから、彼女の前でヘンリーを演じてほしい。俺じゃ偽物だってばれる。メイドにもばれたんだからさ」

「どうしてそんなこと」

「偽物のまま死にたいのか? あ? 『無意識の俺』はお前じゃないんだぞ。それじゃあ罪の清算にはならないだろ」


 俺はヘンリーの胸に両手をさしこんだ。


 ヘンリーは悲鳴を上げる。


「こうするしかないんだよ。すまんな」


 あばらが開く音がして、体内がさらけ出される。そこには何もない。ただの着ぐるみだ。

 俺はヘンリーの中に入り込もうとする。


「じゃあ、演技よろしく。乗っ取ろうとするんじゃないぞ」


 胸が閉まり、俺は完全に奴の中に入り込んだ。





 俺は目を覚ました。すでに外は暗く、俺は立ち上がって玄関ホールにむかった。


「ただいまー」エルマはいつものように、鎧姿で俺に抱き着いてきた。俺は彼女を受け止める。

「お帰り。エルマ」

「ちょっと、その手どうしたの?」驚いて、エルマは俺の手を治した。

「ああ、ちょっと切っちゃって」俺は微笑んで答えた。

「もう。気を付けてよね。……あれ。今日元気だね」

「うん。ちょっと気分転換したんだ」俺はそういった。





 エルマは自室で鎧を脱いでくると、ダイニングルームにやってきた。俺はすでにテーブルについていた。メイドは俺の姿を見ないようにして震えながらエルマを待っているようだった。心なしか、いつも立っている場所より彼女のほうに体が近い。


「エルマ。食事の後ちょっといいかな」

「ん? 何?」

「ちょっとね」





 食事の後、俺の部屋に移動した。


「話って?」


 ランプを開いてベッドに腰掛けると彼女は尋ねた。鎧を外しただけの質素な鎧下姿だった。俺は彼女を見下ろしていた。


 俺はランプの明かりを消した。

 俺は俺に戻っていた。こうすれば表情は見えないだろう。


「なんで消したの?」エルマが不思議そうに尋ねて立ち上がる。


 俺はエルマに口づけを――――


 突然、意識が飛んだ。

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