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俺の幼馴染達が最強すぎて俺にはどうすることもできないのだが  作者: 嵐山 紙切
第2章 Sランク冒険者と魔王

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第13話 義足をもらう。それと、カミラに襲われる

 カミラは怖い。


 幼馴染である俺ですら恐怖する。たぶん怖がらないのは妹のリリスだけだろう。カミラは容赦というものを知らない。

 昔、彼女を怒らせたら、捕虜を拷問するために用意された熱湯入りの鍋に入れられそうになったことがある。今にも切れそうな縄を体に括りつけられて、鍋の上につるされたのだ。俺の懇願を無視して、カミラは無表情でじりじりと俺を下ろしていった。それから、俺は彼女に逆らうことをやめた。


 それに、カミラはエルマとは違い、人によって待遇を変えることがない。エルマは二人のとき必要以上にデレてくるがカミラは違う。誰にでも辛辣、誰にでも冷酷。たとえ二人きりだったとしても。


 だから、他の幼馴染達より早く会いに来たんだ。もし別の女性に先にあっていたと知られたら何をされるかわからない。






 今度はどんな拷問をされるのだろうか、とすでに傷つけられること前提で、俺は廊下を歩いていた。カミラは一度も振り返らない。白い髪がゆらゆらと揺れる背中は、俺が何か口走ることを完全に拒絶している。俺がつく杖の音だけが響いている。



「入って」



 通されたのは昔見たことのある部屋だった。カミラの自室だ。何でできているのかわからない黒いテーブルは天板がつるりとして、陶器のような肌触り。ベッドは大きく、真っ赤な天蓋でおおわれている。窓にはガラスがはめ込まれていて、灰で曇る外の景色が見える。まるで貴族の部屋だ。


 とりあえず拷問部屋に連れていかれなかったことに安堵し、言われるがまま、天蓋をずらしベッドに座った。テーブルと同じような材質の椅子を俺の目の前に運んでくると、カミラは脚を組んで座った。



「ハル、私に言うことあるよね」

「いきなりいなくなってすいませんでした」

「違うよね」


 カミラは俺の杖を奪って腹を突いた。


「『ミラが一番です。愛してます』でしょ」


 俺はぼそぼそと言った。杖で殴られた。


「聞こえない」

「ミラが一番です。愛してます」

「じゃあなんでリリーに先に血あげたの?」


 言わせておいてその質問かよ。俺はきょろきょろと目を泳がせた。


「いや、あの、奪われたというか」

「は?」


 彼女は氷で杖の先端を尖らせると、俺の首に向けた。


「力の弱いリリーに奪われるわけないよね。ハル、あなた男よね。人間で魔族よりも力がないって言っても、リリーよりはあるよね」


 チクリと首に穴が開く。リリスに噛まれた場所の近くから血が滴る。


「それになにこれ」


 カミラは俺の服をつかんで引っ張り、肩を露出させた。エルマにつけられたキスマークがあらわになる。いつ見つけたんだ。目ざとすぎるだろ。


「誰につけられたのこれ」

「虫に刺されただけだよ」

「嘘ついていいと思ってんの?」


 とがった杖がキスマークの場所をうろうろし始める。


「すいません。助けてくれた別の幼馴染につけられました」

「誰それ。監禁女? トカゲ女? 七光り?」

「あの……エルマです」

「ああ。ラプンツェルね」


 一度しか話したことないのになんて記憶力だ。


「で、こんなとこにどうしてキスマークがあるわけ? 裸にでもなったの? まさか、ずっとあの女のところにいたわけじゃないわよね」

「ち、違う。あの、説明させてほしい」


 俺はリリスにした説明を繰り返した。昨日の夜から今日の朝にかけての出来事は黙ったけれど。カミラは杖から氷をはずしたが、事あるごとに杖で俺の足を叩いた。


「そんな感じで、あの、エルマのところに今はいます」

「ふうん。その▓▓▓▓教会については後で滅ぼすとして」魔族の言葉で侮蔑した後に、

「で、キスマークは?」当たり前のようにカミラは尋ねた。


 ごまかせると思ったのに。


 俺は思考をフル回転させる。エルマとのことを話すべきだろうか、いや話すべきではないだろう。しかし、どうやって切り抜ける。いや今みたいに服をずらされてつけられたんだよ、あははは、では納得しないだろう。しかし、本当のことを話してしまえばカミラはエルマを殺しに行くのではないか。あり得る。普通にあり得る。ともすればそれが原因で魔族と人間の戦争になるのではないだろうか。ならないか。いやわからん。俺はとりあえず言葉を探しつつ、嘘にならない程度に話し始めた。


「……裸になったときにですね……」

「したの」


 濁そうと必死になってんのにその質問はきつい。俺は視線をそらした。


「したのかって聞いてんの」


 杖でバシバシたたかれるもんだから、俺の脚はたぶんあざだらけになっている。ただ、もう怖すぎて痛みを感じない。


「しました」

 俺は答えた。


 怒られた後の犬みたいにうなだれた。


 しばらくそうしていると、すんすんと鼻をすする音が聞こえた。ぎょっとする。


 カミラが泣いている。


「なんでぇ。なんでぇ。約束したのにぃ。お嫁さんにしてくれるって言ったのにぃ。うわーん」


 泣き崩れた。そんなこと言った憶えないんだけど。俺がいない間に記憶が捏造されているのではないか、もしくは美化されているのではないですか。


「避妊はしたから」

 とか、全くフォローになっていない言葉を投げかけると、カミラは泣き止んで俺を見た。


「ほんと?」

「ああ、ほんとほんと」


 避妊をしたからなんだというのだ。まじで。行為は完遂しているのだし、何なら第三次大戦まで行ったわけで、そのうち一度は防衛戦ではなく先制攻撃を仕掛けている。そんなことはおくびにも出さないが。


「そっか、じゃあお嫁さんじゃないね」

 カミラはそう言うと涙目のまま無表情になって、

「人間らしい欲望を満たすだけの行為だからね」いつもの彼女に戻った。


 どうやら赤ん坊を目的としなければすべての行為はノーカウントらしい。ずいぶん心の大きい判断だ。


「あの……怒ってない」

「怒ってるよ」


 そりゃそうだった。


「初めては私がもらうはずだったのに」


 カミラが座る椅子の周りが徐々に凍っていく。が、すぐにそれは消えた。


「でもまだ初めてはもらえるから」そういって彼女は立ち上がると、俺をベッドに押し倒した。

「初めて子供を作る相手は私だからね。私が初めてお嫁さんになるの」


 カミラが俺の首に噛みつく。血を吸いながら何かを俺の体に流しているのか、徐々に意識が遠ざかっていく。


 やばい、またこのパターンか。体はすでに力が入らない。


 そのまま、意識の奥底に俺は落ちていった。





 目を覚ますと当然のように裸で隣にはカミラが眠っていた。いったい今は何時なんだろう。すでに日をまたいでしまったのだろうか。わからない。


「ミラ、ミラ」


 揺り動かすと、真っ白な瞼が開いて、赤い瞳がおぼろげに俺をとらえる。


「ああ、おはよう」

 珍しく、カミラは微笑んでいる。幸福そうな顔だった。


「お願いがあるんだ」

「なあに? 旦那さんのお願いだったら何でも聞くよ」カミラは薄い色の唇で俺の頬にキスをする。

「脚のことなんだけど、治せるよね」


 彼女は肯いた。


「治せるけど、ご褒美は? あれ、けっこう高いんだよ」


 俺はうなった。


「ねえ。私赤ちゃん欲しい」


 カミラは俺にすり寄った。小さいが柔らかな胸が腕に触れる。


「いいでしょ」釣り目が俺をじっと見る。


 逡巡して、ため息をついてうなだれた後、俺は肯いた。






 カミラが――というより、魔族の技術があれば脚を治せることは知っていた。記憶の奥深くにあって、つい先日思いだしたことではあったけど。

 昔、魔族の兵で両足を失った奴が次会った日には平気で歩いているのを見たことがあった。カミラに話を聞くと義足で、感覚まで取り戻せるものがあるのだそう。魔族世界にも貨幣概念があるようで、いくらか聞いたが、その時のカミラにはわからなかったようだ。



「人間の貨幣価値だとどのくらいだろう、金貨5枚くらいかな」

 尋ねると技術者らしき魔族は言った。


 俺は低いベッドに横たわって施術を受けている。技術者はトカゲのような顔をしている。目が飛び出して、鱗が体を覆っている。鼻は低く、というより低すぎて穴だけが斜めに空いている。


 彼は俺の脚に黒く、ぼこぼこと模様のついた筒のようなものを取り付けた。何かを塗ったのかすでに右足の感覚はなく、装着時に痛みはない。筒は徐々に形を変え、色を変えて、最後には肌と同じ色をした違和感のない脚になった。


「感覚を戻しますが痛いときは言ってください」


 技術者は脚に何本か針を刺した。途端に、霧が晴れたように感覚が戻ってくる。彼が右足の裏をつつくと、くすぐったさと痛みが脳まで届いた。


「足先は動きますか」


 指を曲げる。力が入って、関節が白くなるのが見えた。


「しばらくは杖を使って歩くのがいいでしょう。まあ慣れるまでですが」


 俺は立ち上がる。驚くべき技術だ。ふくらはぎが膨らんで、力がこもっているのがわかる。


「ありがとうございます」






「終わった?」カミラが部屋に入ってきた。技術者は一礼をして下がった。

「うん。ありがとう」俺は何度か足踏みをしてから言った。

「この後はどうするの?」

「そろそろもどらないと」彼女は俺の言葉にムッとした。

「ずっとここにいてよ。不自由はさせないから」

「戻ってやりたいことがあるんだよ。そのために脚を治してもらったんだけど」


 カミラはじっと俺の顔を見つめて、手をはなした。


「いいよ。わかった。でもすぐに戻ってきてね。赤ちゃん作るんだから」


 そういって彼女は笑った。


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