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俺の幼馴染達が最強すぎて俺にはどうすることもできないのだが  作者: 嵐山 紙切
第2章 Sランク冒険者と魔王

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第12話 吸血鬼の姉妹

 城の中に入ると懐かしさに襲われた。その匂いや、光の加減、柱の模様が記憶の奥深くから思い出を呼び起こした。天井を見上げると放射状の幾何学模様が描かれている。黒を基調としているのは材料が破壊困難な特殊なものだからだとカミラに聞いたことがある。



 灰を払いながら待っていると黒のドレスを着た女性が現れた。額に生えた角は長くヤギを思わせる曲線を描いている。


「お待たせいたしましたヘンリー様。どうぞこちらへ」


 女性について廊下を歩き、バラの咲き誇る屋内庭園に出る。天井につるされた特殊な鉱石によって太陽の代わりに光の恵みを受けたバラたちには棘がない。石造りの道が続いており、庭園の中心には白いテーブルと赤いソファが置かれている。


 赤いソファの上に寝そべっていた異常なほど肌の白い女の子は、俺の姿を見るなり、急いで立ち上がり駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん!」


 カミラの妹、リリスが抱き着いてきた。


 あの頃からほとんど体が変わらない。肌だけでなく髪や眉毛まで白く、瞳は血のように赤い。たれ目で、どこかぼんやりとした印象を受ける。背の高さは俺のへそあたり。10歳程度にしか見えない。体は軽く、エルマのように抱き着いた瞬間倒されることはない。


 はじめは笑顔だったリリスは頬を膨らませて、俺を見た。


「どうして今まで遊びに来てくれなかったの。つまんなかった!」

「いろいろあってね」

「それに、その脚どうしたの?」





 俺はソファに座ってことの経緯を話した。リリスは俺の左ひざを枕にして俺を見上げながら話を聞いていた。


 話を聞き終わったリリスは憤慨した。白い肌がますます白くなったような気がした。


「赦せない」


 一気に周囲の気温が下がって、霜が地面を這う。バラの花びらが凍って、ガラスのように赤黒い破片となって散る。


「寒いよリリー」顎を震わせて愛称でいう。

「ごめん」リリスは俺を温めるように身を寄せてきた。切断された俺の脚に触れる。

「こんなことするなんて……。もっと苦しめて殺せばよかったのに」


 瞳が黒く染まっていく。また寒くなるのは嫌だったし、これ以上バラが死ぬのは庭師に悪い。俺はリリスの背に手をまわしてさすった。彼女を落ち着かせるにはこうするに限る。リリスは息を吐きだして、すり寄ってきた。


「ねえ、お兄ちゃん。血吸っていい?」


 閉口した。吸血鬼姉妹の妹リリスは、俺の返答を待たず、首元に口を当てた。

 鋭い歯が二本、首に刺さる。


「まだいいなんて言ってないぞ」


 俺の話を聞かないリリスは、喉を鳴らして血を吸っている。


「んう……おいひい」


 癖なのか、舌で首をなめながら飲み続けている。俺の肩につかまる両手の爪が鋭く伸びる。背中が盛り上がって、服の切れ目から翼が生え、嬉しそうにはばたく。しっぽが犬のように激しく揺れる。生えてきたそのすべては、肌に似合わず真っ黒だ。


「リリー。これ以上ダメだって」


 俺は彼女を引きはがした。リリスはいやいやと首を振って、真っ赤な口内を見せる。長い舌が顎まで垂れて、血の混じった唾液が官能的に流れる。


「もっと飲みたい。お兄ちゃんのおいしいんだもん。お願いぃ」


 血を飲んだせいか力が強い。俺はソファに押し倒される。リリスは俺に覆いかぶさってまで口を開け、欲しい欲しいをくりかえす。


「カミラはどうした? こんなことしてないで、カミラにも会っておかないと。お願いしたいことがあるんだよ」

「お姉ちゃんは魔王の一人になったから忙しいよ。会ってくれるかわかんないお姉ちゃんより私と遊ぼうよ」


 俺はその言葉に驚いて手を緩めてしまった。しめた、とばかりにリリスは俺の首に噛みつく。

 あの門番は本当に馬鹿だったようだ。魔王の名前も知らなかったのか。

 それにしても、と俺は考える。元魔王の娘であるカミラが魔王になるのは肯ける。が、彼女は魔族のなかではまだ赤子と言っていいほど若いはずだ。何せ、俺と歳は同じくらいなのだから。


「魔王になるなんてな」


 リリスは口を離すと血を滴らせながら言った。


「私もびっくりしちゃったよ。お兄ちゃんがいなくなってからすごく頑張ってたんだよ。なんて言ってたかなあ。ああ、思いだした。『私を捨てるなんて許さない。人間皆殺してやる』って言ってた」


 ふう、おなか一杯。そう言ってリリスは俺の腹の上でうたた寝を始めた。


 今なんて言った?


 ものすごく怖いことを聞いたような気がするんだけど。



 瞬間、



 すべてのバラが一度にはじけた。庭園の入り口には俺を案内したヤギの角を生やした女性がいて深々と頭を下げている。俺はゆっくりと上を向いた。霜ではなく氷が地面を這って柱を上り、庭園を覆いつくしていく。


「ハル」


 暗く響く声が聞こえる。中空ではばたく巨大な翼。そこにはカミラがいた。リリスと同じく真っ白な髪は長く、はばたきに揺れている。翼はリリスと異なり真っ白で、まるで天使のように見える。蝙蝠のような膜の張った翼ではなく、羽毛の生えた鳥のようなものであるからなおさらそう思う。角は額から二本生え、元魔王と同じように後方に湾曲している。


 カミラが地面に降り立った。脚を着いた瞬間氷が溶け、円形に逃げていく。翼が背中に消える。カミラのドレスは威圧をするためか、魔王であるからか真っ黒で、体の線が見えるのではないかというほど質素。身長は俺より少し低いくらい。顔も年相応と言ったところ。冷たい美しさは健在だが。


 花びらを失ったかわいそうなバラたちのそばを通って、カミラは俺のもとへとやってきた。

 俺はと言えば恐れおののいて、ほとんど何もできずにそれをじっと見ていた。相変わらずリリスは俺の腹の上で眠っている。起こせばよかった本当に。カミラはリリスを見て、さらに表情を険しくする。いつも無表情である彼女にしては珍しい表情だった。


「リリーに血をあげたのね。私よりも先に」


 地面から巨大な氷の蛇が飛び出し、頭をもたげる。俺を一飲みしてしまえるくらい頭がデカい。


「私のこと捨てておいて、いまさら戻ってきて、私より先にリリスといちゃつくなんて、いい度胸ね、ハル」


 蛇が口を開いて、俺に襲い掛かる。


「これには訳があるんだ! 聞いてくれ!」


 そんな、浮気をした亭主みたいなことを言って、俺は目をつぶった。

 細かく氷の割れる音がする。しばらくの無音。俺は目を開けぎょっとする。蛇の巨像が口を開いて、今にも俺を飲み込もうとするような姿勢で固まっている。


「聞いてあげる。遺言としてだけど」


 そういって、カミラはリリスの頭を叩いた。


「いたぁい。お姉ちゃんなにすんの」

「いつまで寝ているの。ハルとお話するからどけて」

「ええぇ」

「リリー」カミラは冷たくリリスを睨んだ。

「わかったぁ」


 リリスは仕方ないなぁとつぶやいて、俺から離れた。カミラが氷の蛇に触れると星屑のように輝く霧に変わった。


「ハル、ついてきて」


 俺はカミラの後ろをびくびくしながらついていった。


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