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解釈


 桜の花が儚くあること、そしてその儚く物憂げな散り様をだれにも見せないことには、意志があるのだということは気付く人もいた。

 示されているものが何であるか、気付く人がいたかどうかはともかく。


 星の一つさえない暗闇でばかり、だれにも見られないようこっそりと、いつだって静かに桜が咲いては散っているのは、派手な色で派手にありながら目立たないでいるのは、繰り返される戦乱の愚かさを桜は訴えているようだった。

 どこまでも人間がいかに愚かなことのために必死の活動をしているのかということを、桜は示している。

 示されているメッセージがどのようなものだか、人々はちっともわかっていないものだから、都合の良い解釈ばかりを添える。

 桜のように美しく散りたまえ、などと。


 戦乱の世の中では、桜が散り始めたことにすら気が付かない。

 言葉として、イメージとして、偶像のみが存在している桜という幻の花を、支配の材料として利用するのだ。実際の桜というものを、実際に知っている人が少なすぎるのだ。

 だから植えられた桜のイメージを用いて、全てを利用する。

 戦乱の末の腐った世界で一部の人間が人々を利用するのだ。


 ひらりひらりと花びらは散り落ちていく。

 散り落ちてしまった花びらは、もう二度と戻りはしない。

 一度落ちてしまったら、もう戻ることはないというのに、何かを勘違いしているのか、ご機嫌で地面を踏むのだ。

 桜に見下ろされているだとは、ほんの少しだって思いはしないのだ。

 この戦乱では、落ちた花びらを拾い集めることなどできないし、哀しみの終わりを知ることもできない。


 永遠に続く哀しみの、終焉を知っている人間は存在しはしないのだ。

 どれほど幸せを謳おうとも、裕福であろうと立場を持っていようと、所詮は全てにおいて廃れた世界だ。だれも何も持っていない。

 幸せなふりをして笑おうとも、それが哀しみの底の幸せであることを知らないはずはないのだから、落花の中で悲嘆に暮れているのみなのだ。

 桜のようだと勝手に形容し、桜を夢想する人間は儚く憐れなのだ。


 どうしてだろう。

 暗闇に潜んでいるというのに、なぜだかこの花は派手で明るいようにも見えるのだ。

 これほど暗くありながらも明るく、暗いというのに派手で地味になるようなことはない。

 手の届かない花に示された、矛盾という美しさは、知識人と桜人の全くの差というものを教えているようだった。

 そしてそれほど示されているというのに、やはり多くはいまだに気が付かないのである。


 乱れた世のせいにして、自らの眼の腐ったところを、言い訳のために覆い隠すのだ。

「桜よ。お前はなんと美しいことか。桜の美しさを歌えるのは、きっと私だけである」

 どこまで愚かならば気が済むのか、そう、桜に語り掛けた人間があった。

 何を理解したつもりでいるのか、寄りにもよって昼間の誇らしい姿ではなく、夜桜を狙い語り掛けたのだ。

 その美しさを知った、そう勘違いした人間は、只管に声を掛けた。

 花びらに包まれて嘲笑われながら、なぜ庇護を期待できたのだろう。


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