オリオンからの手紙
今年もまた、オリオン座が空に輝く季節になった。
街を行き交う人たちは寒さに震えながらも家路を急ぐ。確かな温もりをそこに求めて。
クリスマスを前にして友人に彼女が出来たので僕はクリスマスの予定が丸々空いてしまった。いつもなら街ゆくアベックを罵りながらキムチ鍋をつついていたのに……
いっこ年下の内気な彼女。バイト先で友人が面倒を見て懐かれたらしい。顔はハッキリ言って大したことないが、良い奴なのは僕も保証したから大丈夫だと思う。きっと初めての恋人同士のクリスマスに浮かれていることだろう。
だから、自分だけでクリスマスを呪うなんてしたくなかったし、第一そうすると友人の不幸まで願ってしまう事になる。いや、そこまで考えなくても良いのだけれど。
クリスマス商戦のラインナップから遠ざかるように僕は天文台に向かった。こういう時は星を眺めるに限る。嫌な事がある時はいつも星を見ていた。そうすると自分の悩みとかいかにちっぽけな事かと再認識出来るから。
天文台は静かだった。当たり前だ。わざわざクリスマスにこんな所に来るやつなんてよっぽど変な奴だもの。僕は望遠鏡を覗いた。オリオン座。ベテルギウス、リゲルという2つの一等星。アルニラム、アルニタク、ミンタカの三つ星。暗黒星雲の馬頭星雲にウルトラマンの出身地のM78散光星雲もある。まさに冬の星座の代表格だ。夢中になってみている僕を誰かが呼んだ気がした。
「……誰?」
気の所為なのかもしれない。何しろ、ここには僕しか居ないのだ。僕が再び望遠鏡を覗き込むと……向こうもこちらを覗いていた。
「うわっ!」
思わず叫んで尻もちをついてしまった。アレだ。深淵を覗く時、深淵もまた人を覗くのだってやつ……
「こんばんは」
涼やかな声。深淵って可愛い声してるんだな……
「お手紙ありがとう!」
少女……多分10歳くらいの子がにこやかにこちらを見ていた。動悸が激しくなる。違うぞ。これはビックリしたからドキドキしているのであって、決して女の子に免疫なくて10歳の子にも挙動不審になってしまったって事じゃないからな!
「お手紙のお返事しに来たよ」
そこにあったのは僕が5歳の頃に書いたクリスマスツリーにさげた短冊。当時はクリスマスと七夕の違いをわかってなくてそんな事をしていたのだ。
そこには汚らしい幼稚園児の字だ『僕とお友達になってください』と書いてあった。
そして彼女は1枚の紙を広げた。
『私でよかったらあなたのお友達にしてください』
確かにそう書いてあった。
「そういう事だから、不束者ですがよろしくね!」
にこやかに微笑む。
「えええええええええええええ……」
変な声が出た。手紙の返事……なんで今頃?
「昨日手紙が届いたから嬉しくてワープしてきちゃったの!」
地球とオリオン座の距離は17光年……つまり、はそういう事なのだろう。しかし何光年もの距離を一瞬で詰めるなんてワープって凄いな。
「私はね、ベラトリックスって言うのよ。貴方の名前は?」
それが僕がこの日から次々と巻き込まれていく騒動の日々の始まりの手紙だった。




