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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
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才人の妥協(1)

 朝起きたら、割り当てられた自室の寝台の上で、靴だけ脱いで寝ていた。


「……? なんとか帰ってこれたのかな?」


 セリスは首を傾げながら、体を起こす。

 窓の外はすでに明るいが、空気は爽やかでまだ早い時間と知れた。

 前夜の記憶は、まったくない。


(酔った。やっぱり、あの「酒の形をしたぶどう」は飲んではいけないものだったのです。要するに、酒の形をした酒じゃないですか)


 最近ではアルスにはめられた一件もあるし、大いに反省すべきことだと自覚はあった。

 セリスの体はセリスだけのものではない。

 万が一にでも、誰かに必要以上に深いところまで、触れられることがあってはならないのだ。

 しかし、いま心の中を占めているのは、エスファンドから教授された圧倒的な知識の塊であった。全然飲み込めていないが、ものすごい体験をしたということはわかる。


(早く、また会いたい。わたしは、あの人からは学ぶべきことがたくさんある)


 昨日はエスファンドの語る内容に夢中で、飲み食いする時間すら惜しかったように、今は顔を洗う時間も身支度する時間も惜しい。

 一刻も早くエスファンドの元へ行かねばと寝台から跳ね起きて、もどかしい思いで適当に身なりを整えた。顔を洗う水も満足になかった旅の間よりも手を抜いていたが、構わない。

 この生活の乱れは、お目付け役がいなくなったせいかもしれない、とセリスとて薄々気付いていた。

 アーネストもまた、アルザイになんらかの役目を割り振られているはず。


「もっときちんと、話せば良かった。アーネストと」


 呟いた瞬間に、ふっと昨晩の出来事が一瞬だけ何かが脳裏をかすめた。

 夢うつつに。

 誰かの腕に抱かれたぬくもり。

 自分ではままならないほど酔いつぶれてしまったセリスの体を寝台に横たえて、靴を丁寧に脱がせてくれたような……。

 はっきり思い出せたわけではないが、気のせいとも思えない。

 この王宮で、そんなことをしそうな人と言えばアーネストくらいだ。さすがに同室が当たり前だった旅の間とは違い、朝になる前に自分の部屋に帰ったのだろう。そのまま別々の場所で仕事を始めれば、しばらく顔を合わす機会もないかもしれない。


(アーネストはどこで寝泊まりしているんだろう。兵舎かな。ラムウィンドスの部下として迎えられていたりして……)


 離れた途端に満足に身支度もできなくなり、不器用に頭に布を巻き付けたセリスの姿を見れば、アーネストはこんこんと小言を言いそうなものだった。


 セリスは渋面のアーネストを思い浮かべて、小さく笑いながら、廊下に出た。


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