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兄妹(後編)

「セリス、それは思い込みというものだ。私にも父上にも失礼だよ」

「……申し訳ありません」

「本当に、申し訳ないと思っているのかい? 私がなぜ怒っているのか、本当にわかっているかい?」


 問い詰める声の調子は厳しく、セリスは力なく首を振るのが精一杯だった。

 ゼファードはすっと目を細めた。そうしていると、親しみやすい人だと思ったのが不思議なほど酷薄な印象になった。


「よくわからないなら、簡単に謝るべきではない。王宮には、これまで姫が会ったことがないような心根の腐ったような奴や、己の利しか考えない腹黒い奴がいっぱいいるんだ。そういった連中に、隙を見せることになる。それが、姫の命取りとなるんだ。いいね、まずそのことを頭に叩き込んでおきなさい。……返事はできる?」

「はい」


 勢いに押されて頷いた後に、ゼファードの言ったことが少しずつしみこんできた。

 ゼファードはそこでようやく表情をゆるめた。氷が陽射しに溶けるように、その顔にあたたかいものが広がっていく。


「よし、素直であるというのはいいことだ。だけど、くれぐれも気をつけて。私に、約束をしておくれ。自分のことを迷惑だとか、私や父上がそのように思っているとかいうようなことは、二度と言わないと。誰がなんと言おうと、私は君を愛している。この愛を疑うような言葉、そのかわいらしい唇からは聞きたくないよ」


 ゼファードは手を伸ばしてセリスの顎をとらえて上向かせる。そして、親指でセリスの唇をそっとなぞった。

 背筋に、得も言われぬ悪寒が走った。

 笑っていてくれれば良いのに、ゼファードの表情はまた真剣なものに取って代わられていて、気持ちが落ち着かなくなる。


「あの、兄様……」

「バカ王子。いい加減にするように」


 返答にまどうセリスと、真剣なゼファードの視線の交じるところに、大きな障害物が現れた。


「人目があるところでおかしなことをするな。また親バカ王子派の連中に、ぜひとも『幸福の姫君』を王妃にとか言われるぞ」

「ラムウィンドス。妬いているね?」

「疲れているだけだ。早く帰って寝たい」

「帰っちゃだめだろ」

「なら、早く行くぞ」


 ラムウィンドスの態度や話し方は、これまでセリスが会ったことのある誰よりもそっけなかった。

 何より、誰よりも偉そうだった。

 飾り気が無いだけに、その不遜さは圧倒的だった。

 セリスは言葉もなく目の前の背中を見つめてしまう。


 簡素な象牙色(アイボリー)長衣(カフタン)をまとい、白金色の髪をひとつに束ねただけの後姿は、ラムウィンドスそのものといった愛想のなさ。

 いっそ清々しいほどの一貫性がある。

 だからといってそれが好感につながることがないのは、ひとえに怖いことには変わりないからだ。


(わたしに「笑え」と言うけれど、ラムウィンドスは笑うことがあるのかしら)


 戸惑うセリスの前で、男二人はまだ何か言い争っている。

 主にゼファードが絡み、ラムウィンドスが鬱陶しそうに跳ねのけているだけであったが。

 止めるべきなのか、見守るべきなのかわからず口を出しかねていると、マイヤが後ろからドレスの袖を引っ張った。


「姫さま、誰か来ます」


 ゼファードとラムウィンドスは同時に口をつぐんだ。そして、回廊の向こうを見やる。

 揃いの服に身を包み、腰に剣を佩いだ数人の青年たちが、角を曲がってきたところであった。


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✼2024.9.13発売✼
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