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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第三部】 熱砂の国の旅人
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激突(3)

 セリスの身体の脇に手をついたまま、アルスは右手でセリスの銀の髪を指で梳く。セリスは目を逸らさずにアルスの顔をまっすぐに見上げていた。


「怖がらないですね」


 アルスが微笑んで、少し呆れた口調で言う。


「じたばたして、あなたを喜ばせたくないんです」


 少女にしては硬質で、少年にしては甘い声でセリスが答えた。

 外見もまた、その声を裏切らない。少女のように可憐な目鼻立ちをしているが、少年のように涼しいまなざしをしている。どの角度から見ても、少女にも少年にも見える。うつくしくて、不安定。


「あなたが恐怖に鈍感なのは、単に気が強いだけでは説明がつかなさそうですね。あなたには穴が開いている……あなたの、ここにね」


 言いながら、アルスはセリスの胸の中心に軽く手を置いた。

 その瞬間、セリスがひゅっと微かに息を飲んだ。

 ごく小さな反応だったが、アルスにはそれで十分。見逃さなかった。

 掌に力を加えて、胸をぐっと圧迫する。苦しさにセリスが顔を歪める。身体の緊張が伝わってくる。


「ああ、なるほど。触れられるのが怖くないわけじゃないんですね。少し、安心しました」


 アルスはゆっくりとセリスの服の上から鎖骨をなぞり、その固さを指先に感じる。そして再び胸の中心に指で触れる。薄い肉付き。力を加えたら、砕けてしまいそうな骨の脆さが伝わってきた。鍛えてもそういう体質の者もいるが、セリスのそれは違う。


「男としての振る舞いは、さほどうまくないと思っていましたが。あなたはやはり、女性だ」


 アルスの囁きにより、セリスの目の奥に、はっきりと恐怖らしい恐怖がよぎった。

 その事実に、アルスは満足した。優しく髪を梳き、額に軽い口づけを落とす。


「ようやく、理解したようですね。自分に何が起こるか」


 絶望に染まった顔を見ようとアルスが顔を上げたそのとき、セリスが拳を振り上げた。アルスは片手で危なげなくそれを受ける。


「もう動けるんですか。意志が強い」


 くすくすと笑いながら、受け止めた手を広げて、指に指を絡めて寝台に押し付けた。そのまま、首筋に噛みつくように唇を寄せて──


「……()()()()


 ひそやかに呟いて、身を翻して寝台を下りた。自分の長い髪を指で梳いて、耳にかける。

 乏しい光の中、視線を戸口へと流す。手は床に置いてあった剣を掴んだ。それはおそらく始めからそこにあったのだろう。必ずこの場へ現れる、何者かに備えて。

 気配。布で仕切られた戸口の向こうに誰かがいる。

 セリスが気付いたそのとき、アルスが口を開いた。


「外はどうなっています」

「ひどいことになっている。よくもあれほどのゴロツキを、ここまでひきつけてきたものだ」


 そっけないまでの、簡潔な返答。

 アルスは聞こえよがしな溜息をついて、言った。


「それでどうして、一人で来たのかなこの自信家は。頭に血が上りすぎでは? 正規軍を動かす権限があるんだろ?」

「手が足りなくても、アルスがいれば十分だ。お前も最終的には殺す」

「大きく出たな、ラムウィンドス」 


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