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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第三部】 熱砂の国の旅人
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激突(2)

 息を飲んだライアの視線の先で、アルザイが物陰から向かってきた男の剣を受けて流して、返す勢いで切り捨てた。

 血飛沫が上がる。鮮血が派手な水の音を撒き散らす。


「あっ……」


 身動きも取れないライアの首に、何者かが背後から腕を巻き付けてくる。

 殺される。

 瞬間的に覚悟したが、振り返りざまのアーネストが一切の躊躇のない神速で、ライアを拘束しようとした男に剣を叩き込んだ。


 ふっと首元の腕から力が抜けるが、襲撃者の体の重みが加わってライアは引きずられて倒れそうになる。そのライアの腕をアルザイの手が強く掴んで支えた。

 目はライアを見ていない。

 追いかけていたのは、剣を振るうアーネストの姿。

 一人で二人を相手どっているが、危なげなくかわして順に切り捨てる。まるで決められた動きをなぞって舞っているかのような、鮮やかさ。


「これは……」

「俺への暗殺命令を下していたのは、イルハンらしいな。姫君が遠巻きにつれてきて、昨日王宮で確保させてもらった『護衛』だ。さて……どうするかな」


 瞬く間にアルザイとアーネストによって屠られた侵入者を見て、ライアは絶句する。

 倒れ伏した者たちの顔に、ライアは確かに見覚えがあった。


「……変やなとは思ってた。オッサン、なんでオレを王女につけてんのかなって。こいつら、オッサンを殺すか、王宮で王女を殺すかだったんかな。王女を殺されれば、イルハンはマズバルに戦争仕掛けるきっかけができる」


 わずかに返り血を受けたアーネストがさめた声で言う。


「さて。どちらにせよ、面倒事を起こそうとしていたのは確かだな。それにしてもお前、さすがに良い働きをする」

「勘違いすんなや。王女に剣を向けたから、護衛した」


 アーネストはいまだ剣を収めていない。アルザイの動き次第で、戦いを続行しそうな気配すらある。その好戦的な様子に、アルザイは声を立てて笑った。


「この月の男と、月の王ゼファードに免じて、この件()()()()()()()()不問とする。あなたを処刑しようとすればこの男がゴタゴタ起こしそうで、面倒だ。但し、俺はやられたままではいられない。いずれイルハンとは揉めるだろう。マズバルに留まるも、帰るも自由だ。止めはしない」


 意外なほど、優しい声だった。

 辺りには濃い血臭が漂っている。

 ライアは息苦しさを覚えたが、なんとか唾を飲み込んだ。


「私はこんな馬鹿げた企みに気付かず、陛下の元まで暗殺者を引き連れてきてしまったわけね……。帰っても、私の命は無いでしょう」

「俺もそう思う。イルハンまで帰り着くことはできないだろう。そして、イルハンは王女の死に関して俺に難癖をつけてくるはずだ。とはいえここに留まれば、マズバルがイルハン攻略をする際に、俺の軍に加わることになる。覚悟はしておくように」

「……わかりました」


 顔も上げられず、なんとか答えたライアの横に、アーネストが立った。肩が触れそうなほど近く、ほのかなぬくもりを感じた。


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