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王宮へ(3)

 イクストゥーラ王は、まぶしそうに目を細めてセリスを見ていた。


 セリスは、その御前まで進んだほうが良いのだろうと、真紅の絨毯を銀に染め上げたなめし革の(くつ)で踏みしめて進む。しかし、周りの音が止んで誰も口をきかないことに不意に不安を覚えて、立ち止まりそうになった。


「前へ進め。おどおどするな」


 すぐに、背後からセリスにしか聞こえないであろう音量の低い声に叱られた。


(ラムウィンドス……! なんだか、ずっと怒っているみたい)


 ぶっきらぼうに言い捨てるような厳しさには、どうしても緊張を強いられる。

 セリスのことが嫌いなのか、お守りの役目が気に入らないのか、その両方か。


 思い起こせば、離宮に訪れる女官の中にも、そういう者がいなかったわけではない。「王宮勤務が良かったのに」と嘆いてはセリスにきつくあたり、そしてある日突然いなくなる。その後は、みな一様にセリスに優しくなるのだ。まるで、機嫌を損ねたらひどい目に遭うと言わんばかりに。


 排除を申し入れていたのはセリスではないが、女官長をはじめとした監視の目が行き届いていて、問題の芽は早急に摘まれているのだと、そのうち気がついた。

 接する相手こそ少なかったが、そういった空気を感じるたびに自分が「王族たるもの」であると、意識したことはある。

 その意味では、まったくの世間知らずでもないはず、とセリスは自分を鼓舞した。

 だが、やはり作法に関しては、いまいち自信がない。


「あの、自分から話しかけるのは、いけないんですか?」


 セリスは、振り返らぬまま、小声で一番近くにいるであろうラムウィンドスに尋ねた。

 わからないことは、わかっていそうなひとに聞くべきだと信じている。


「陛下に声をかけられるまでは、神妙にしていろ」


 突き放すような冷たさながら、聞いたことには答えてくれた。なるほど、と思いつつセリスは念の為、さらに確認をした。


「にこにこしていてはだめですか?」

「好きにしろ」

「好きに? 神妙とにこにこはどちらが」


 思わず振り返ると、ラムウィンドスが同じタイミングで横を向いた。俺に聞くな、とその横顔には書いてあった。


「セリス」


 ついに名を呼ばれて、セリスはぱっと父王へと向き直る。視界の隅で、ラムウィンドスが平伏せんばかりにさっと姿勢を低くしたのが見えた。


「ずいぶん長いこと、不自由な暮らしをさせた……。これからは、王宮で顔を合わせることもあるだろう。今までとは違う生活になるが、臆することはない。いずれ伴侶を選ぶその日まで、自分を磨いて生きていなさい」


「はいっ」


 目を見て良い返事をしてみたつもりであったが、父王は表情をあまり動かすことなくじっと見返してきてだけであった。


(ん? 話しかけられて、返事をしたけど、だめなのかしら?)


 どうも勝手がわからない、と思いつつもセリスは微笑を絶やすことなく、王から目をそらさずにまっすぐに背を伸ばして立つ。

 ふ、と王は小さく息を吐きだした。


「母親に、よく似ている……。『幸福の姫君』が伴侶を選ぶというのは、世界の命運に関わること。決して間違いは許されない。そのことは忘れないように」


 乾いた声であった。

 セリスは言い知れぬ違和感を覚えたが、それが何か掴めぬまま、神妙な顔を意識して「はい」と答えた。

 そのとき、ふと父王の目が自分を見ていないことに気づいた。


 セリスを通り過ぎて、その背後に向けられている。

 視線を追いかけながら肩越しに振り返って、王が何を見ているのか確認しようとした。

 そこには、頭を下げたままの、ラムウィンドスの姿があった。





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