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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第三部】 熱砂の国の旅人
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相性は悪いまま

「久しぶりだな。お前の顔は覚えている、月の国の、口の利き方を知らん男。それでなんだお前ら、喧嘩でもしたのか?」


 連れ立って顔を見せたアーネストとラムウィンドスに向かって、「砂漠の黒鷲」ことアルザイは黒瞳を輝かせて言った。


 * * *


 オアシス諸都市で一、二を争う権勢を誇るマズバルは、アルザイ治下いよいよその繁栄を確かなものにしている。


 砂漠の風に耐える頑健な石造りの王宮は、細部にまで意匠が凝らされていた。

 至る所に種々の草木が植えられ、中庭には咲き誇る花々に彩られて満面の水を湛えた泉まで備えている。そこだけ見ると、まるでここが砂漠の真っ只中とは思われない。


 王宮に詰める役人や軍人、その他職人や下働きは男女問わず多いようで、回廊にはたくさんの人が行きかっている。中には高官も含まれるだろうが、すれ違うたびに挨拶はあるものの、極端に流れが阻害されるような大仰なやりとりが発生しないのは、主であるアルザイの方針であるらしい。立ち止まるとそれだけ仕事の時間が減る、と王自らが言うので、敬礼なども簡略化されているという。


 そのような、いささか実務重視の方針であっても、ラムウィンドスが歩けば当然のようにすれ違った相手は道を譲るような仕草をする。

 さらには、王であるアルザイが肩で風を切って大股に歩いてきたときは、誰もが畏敬の念に打たれたかのように頭を垂れていた。かろうじて足を止めないのは、そうするとアルザイから小言が飛んでくるからでしかない。


(相変わらず、熱源みたいな男だ)


 全身から、何かしら常人とは違う熱を発している。

 その姿を確認し、アーネストは最高に嫌な感情が顔に出ないように一応気を付けた。


 ラムウィンドスはといえば「俺とアーネストが喧嘩などするものか」と摩訶不思議な自信を漂わせて言った。

 当のアーネストに、横から射殺さんばかりに睨みつけられてすら、気付いた様子もない。

 アルザイだけが二人の間の温度差をしっかり理解して、ぶはははと遠慮なくふきだした。


「アーネスト。俺の花嫁を護衛してここまで連れてきたのがお前だってな。どういうめぐり合わせなんだ?」


 会談の場を設けるどころか、通りすがりに遭遇しただけの、王宮の廊下という場所も場所なら、アルザイの気安い態度も不躾さも三年前と何も変わっていない。

 口の悪さには自覚のあるアーネストだが、奥歯を噛み締めて売り言葉を堪えていた。

 さすがに、この場でこの相手に喧嘩をふっかけて、買われてしまったら大惨事である。


「その花嫁に一切の関心を示さないのもどういう了見かしら。この玲瓏たる美貌と並んだら霞んでしまうのはわかりますけれど」


 アーネストの横にいたライアが、一歩進み出てアルザイと対峙した。


「おお、これは花嫁殿。失礼した。ようこそ、マズバルへ」


 アルザイが大仰な仕草で両腕を開いて歓待の意を表すが、ライアはそれににこりと笑ってから小首を可愛らしく傾げて言った。


「意外と陰険なのね。もしかしてわざと無視したのかしら。呼ばれてもいないのに来てしまって、ごめんなさいね」

「これは手厳しい。王女の顔を知らなかっただけだ。あなたがライア王女で間違いないということでよろしいか」

「間違いないわ。初めましてアルザイ様」


 政略により夫婦になる二人にふさわしい、寒々しい対面だった。アルザイは、まったくライアに関心のないそぶりで、すぐにアーネストに顔を向ける。


「間違いないのか、鬼畜美形。月のお前がどうしてイルハンの王女の護衛をしていたのか、実に興味深いんだが」


 やや引き気味に見ていたアーネストが発言するより早く、ライアが思い切り強くアーネストの腕にしがみついた。


「それはね、イルハンで私が見つけたからよ。城下に下りたら、目の覚めるような美形の旅人がいて、一目で気に入って雇ったの。腕も確かで良い拾いものだったけど、月の人間とは知らなかったわ」

「面白い作り話だな」


 アルザイは、まったく取り合うつもりがないらしい。

 会話に入らずに佇んでいた男は、表面上は常と変わらぬ無表情。だが、アルザイがその景気の悪い顔を指摘した通り、落ち込んでいる様子だった。


「ま、何はともあれ、歓迎の宴をもうけよう。王女殿下にはまた後程。行くぞ」


 アルザイはさっと話を切り上げて、背を向けて歩き出す。沈んでいた男も、声に反応して後に従いながら、振り返って言った。


「アーネスト。後で話を」

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