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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第三部】 熱砂の国の旅人
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新月の夜に星は降り注ぐ(後編)

「……僕が悪かったです。ごめんなさい」


 セリスは、がっくりと首を垂れる。

 自分がアーネストに何を「無理強い」しそうになったかは、痛いほどわかってしまった。これではまるで、ライアと閨をともにしろ、と言ったに等しい。

 国を出てきたいま、セリスとアーネストの間には、主従と呼べる関係が残っているかすらわからないのだ。命令する権限など、ない。

 アーネストを、つまらないことで傷つけてしまった。セリスは激しい後悔に襲われた。


「反省しとる?」


 問われて、セリスは頷いた。今更ながら、膝ががくがくと震えだして、座り込みそうになったが、差し出されたアーネストの腕に腰を支えられた。


「なに、震えてんの。俺が怖い?」

「自分がしようとしたことが恐ろしくて、と言うのはずるいかと思いますが」


(吐きそう)


 アーネストが、笑った気配が伝わってきた。

 顔を合わせないまま、アーネストが耳元に唇を寄せてくる。低い声でそっと囁かれる。


「怖いゆう感覚、ちゃんとあるやん」


 アーネストの腕から解放されて、セリスは震えのおさまった足で床を踏みしめる。

 空気を変えるか為か、アーネストは腕を高く伸ばして、肩をほぐすように首を軽くまわした。


「なんや、寝る気もなくなったし。星見に行こうか。月の国では別に新月は不吉でもなんでもないしな。何度でも生まれ変わる月の象徴や。大体、手を伸ばしてもどうにもできんのが月やっちゅうのに、砂漠の奴らはよくも好きに言うもんやな。せいぜい、届かぬ空に向かって吠えてればいいわ」


 いつも通りの口と態度の悪さを戻したアーネストに、セリスは目の端に勝手に浮かんできていた涙を急いで拭った。


「空に輝く太陽を落としたから、いい気になってるのでしょう」

「それかて、思い込みやわ。太陽(アスランディア)はいまも、ぜんっぜん死に絶えてなかったやろ。ピンピンしてたわ」


 誰かを思い描いたようで、アーネストは憎々しげに吐き出すと、荒い仕草で頬にかかった蜜色の髪を払った。


「さっさと星を見て、寝るで。行こう。姫さんは、念のため顔を隠してな。その綺麗な顔、誰に見初められるかわからん」


 何やら妙にやる気になっているアーネストにつられて、セリスは寝台まで引き返し、置いてあった布で顔の半分を覆う。


「アーネスト。さっき僕のいったこと、気にしてます?」

「どれや」

「ライアが夜這いにくるかも、て言ったの」

「…………………………アホンダラやな」


 やや長い沈黙の末、独り言のような、誰宛かよくわからない罵りを口にされ、セリスは首を傾げた。


「アホンダラというのは、もしかして僕ですか?」

「知らん」


 こういう頑なな物言いをするときのアーネストは、追及するとどんどんへそを曲げてしまう。さすがにそれは長旅の相棒としてわかっているセリスは、話を切り上げて、ドアの前で待つアーネストに歩み寄る。

 そして、一つ提案した。


「アホンダラついでにねぼけたこと言いますけど、やっぱり星見には、ライアも誘いませんか。時間が惜しいです、僕達は親交を深めるべきだと思います」


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✼2024.9.13発売✼
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