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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第二部】 砂漠からの風
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恋路を邪魔する者は(2)

「ったく。イクストゥーラに来てから運動不足になってるヒマがねえ」


 ぼやく言葉とは裏腹に、ひどく快活な笑みを浮かべてアルザイはテーブルに向かってきた。セリスは優雅な仕草でカップに唇を寄せていたが、戦いを終えてきたアルザイに微笑みかける。


「ではいつかわたしともお手合わせお願いしたいです」

「いつでも大歓迎だ。今からでも、俺の閨に」


 喜色満面で両手を広げたアルザイ。まさしく大歓迎といった風情であるが、一方のセリスはきょとんとして目をしばたく。


「閨で手合わせ、ですか」

「マイヤ、姫の口をふさぐように。耳もだ。あと目も」


 腕が二本しかないマイヤに無体な命令を下したのはラムウィンドスである。表情が消え去っている。対するアルザイは、人を食ったにやにや笑いを浮かべてラムウィンドスを見ていた。


「予言は、姫の最初の男が覇王になるとは言ってなかっただろ。そんなに目くじらたてて見張ってないで、もっとのびのび男と触れ合わせた方がいいぜ。ちょっとくらいのおてんばだって許してやれよ。姫はものを知らなすぎだぞ」


 ラムウィンドスは著しく気分を害したらしい。手は再び剣に置かれている。その様子を見たアルザイは、さらに笑みを深めて続けた。


「俺は寛大な男だからな。さてはその顔、何か不満でもあるのか?」


 挑発が、逆にラムウィンドスの冷静を呼び覚ましたらしい。汚らわしいものを払うように頭を軽く振ると、視線を遠くに投げた。何も見るまいと決めたかのように。


(……何を期待していたのだろう)


 マイヤによって両耳をふさがれた状態で、セリスはラムウィンドスを目で追っていた。

 関知せぬと決めた様子に胸の奥が痛み、痛んだことに自分自身でおどろいていた。

 いつの間にか、ラムウィンドスがそばにいて、自分のために剣をふるってくれるのを当たり前のように思っていた。その限りにおいて自分は彼の「守るべきもの」であり「たしかなもの」でいられるのだから。

 でもそれは錯覚に過ぎない。彼がセリスを守るのはセリスがイクストゥーラの「幸福の姫君」だからだ。

 セリスはそっと腕を伸ばして、マイヤの手指に触れる。耳からはずさせて、アルザイに目を向ける。


「アルザイ様。わたし、アルザイ様に聞いてみたいことがあったんです」

「なんだ。姫もようやく俺の魅力に気づいたか? いいぜ、なんでも聞いてくれ。相手に興味を持って知りたくなるってのは、恋における重要な一歩だ」


 恋。


(恋とはなにかしら。この感情は恋ではないように思うのだけれど)


「もし『幸福の姫君』があなたの手を取ったとして、世界がいま以上に良くなるとしたら、それはどんな結果として現れると思いますか」


 アルザイの顔から、はじめてにやにや笑いが消えた。


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