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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第二部】 砂漠からの風
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恋路を邪魔する者は(1)

「砂漠ってのは、とにかく陽射しがきつい。ほんの一瞬、被るものを忘れて太陽の下に顔を出しただけで、焼ける焼ける。姫は経験がないだろうが、知ってるか? 頭皮も日焼けするんだ。こう、真っ赤になってひりひりして痛ぇのなんの。しかも時間がたつと白くなって剥けてくるんだけど、頭掻くたびにボロボロって落ちてくる。あれは参るね」


 アルザイが王宮を訪れて三日がたっていた。

 セリスの午後の時間はアルザイのために割かれることになってしまっていた。

 何しろ、何かと理由をつけてはアルザイが部屋を訪ねて来るので、お茶飲みがてら相手をしないわけにはいかないのである。

 釉薬で彩色のされたカップを両手で持って、セリスは真剣に相槌を打つ。

 やはり異国の人は変わった経験をしてらっしゃる、と大変感心しつつ、興味深く耳を傾けていた。


「しかし、月の娘とはよく言ったものだ。月光を閉じ込めたような、きれいな肌をしている。あの砂漠のきつい太陽の下に姫を連れ帰るのは、申し訳ないな。とはいえ、死にはしない。健康的に焼けてかえっていいかもしれない。そうそう、服を着ていても日に焼けるんだ。ひとつ、見てみるか?」


 セリスの聞き上手っぷりに気を良くしたのか、砂漠からの旅人は上着に手をかける。明らかに、脱ごうとしていていた。

 そこに、旅人の大げさすぎる話ぶりとは実に対照的な、そっけない一言が投げられた。


「殿下は一度死ぬべきだ」


 冗談を言う習慣のないらしいイクストゥーラ軍総司令官は、すみやかに剣を抜いていた。

 横目でそれを見たアルザイは、素早く立ち上がりしな、椅子を蹴倒してその向こうに立つラムウィンドスを睨みつける。


「おい、俺と姫の語らいを邪魔してくれるなよ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねって言葉知らないのか」

「俺に馬に蹴られて死ねという意味なら、まず馬をここへ連れて来い。話はそれからだ」


 セリスの観察によると、ラムウィンドスはアルザイに対して、付き合いが良い。

 もっとも、口調がそっけないので誤解されていそうだが、ラムウィンドスは誰に対してもわりと付き合いは良い。どんな世迷い言にも、律儀に返事をしている。


「それは、馬がいたら蹴られてみてもいいってことか。恋路を邪魔している自覚はあるわけだ」


 言いながら、アルザイもまたのんびりと剣を抜く。

 その次の瞬間、鮮やかに切り込んできたラムウィンドスの一撃を的確に見極め、避けるために飛び上がっていた。


「お前、それは話をする態度じゃないぞ!」

「馬がいない以上、馬抜きで話を進めるしかないだろう」

「待てよ、明らかに馬を連れてくる時間を与えるつもりねーだろ!」

「ここに馬を連れ込まれては迷惑だ、と気付いた。馬は不要だ」


 剣をかわしながら、アルザイは頬を歪めて苦みばしった笑みを浮かべた。

 アルザイは、動作も話しぶりも大袈裟な上にとにかくうるさいせいで、全体としてみると大変胡散臭い印象があるのだが、言っていることは案外まともである。


 カップに残ったお茶がこぼれないように胸の前でしっかりと持ちながら、セリスは二人の観察に勤しんでいた。

 給仕についていたマイヤは声に出さずに「姫さま、危ないからこちらへ」と動作で示していたが、セリスは大丈夫、と頷いてみせる。


「やっぱり、わかりあうためには剣と剣なのよね……。わたしも強くなりたいです」


 両者まったくひかずに激しい打ち合いが続く。セリスは切なげにため息をつくだけだった。

 最終目標は、ラムウィンドスから一本とることである。アーネストに打ち明けてみたところ「人間、死ぬ気でやれば出来ないことなんてあらへんで」と言われたので、それを励みに頑張ろうと心に誓っていた。

 セリスが引き揚げないのを見たマイヤも、肚をくくったようにポットを持ち上げた。


「姫さま、お茶のおかわりはいかがですか」

「ありがとう。アルザイ様はどうなさるかしら」

「お忙しそうですから、後の方がよろしいのではないですか」

「いいや、ぜひとも所望する! ってことで一旦退け!」


 ラムウィンドスの剣を力で押し返したアルザイが、荒い息をこぼしながら小競り合いの終息を宣言する。同じく息を切らせたラムウィンドスは、警戒をとかぬままアルザイを睨みつけていたが、アルザイが剣を鞘におさめたのを確認すると、その動きにならったように身を引いた。



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