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 がつっと鈍い衝突音。

 胸の前で腕を交差させ、相手はラムウィンドスの蹴りを受け止める。衝撃を受け流し、にこっと不敵な笑み。


「あ~、この感じ。懐かしいですねッ」


 語尾が不自然に跳ねたのは、ラムウィンドスがもう一撃加えようとしたせいだ。若干の手加減と、相手の反射神経の良さで、大事には至っていない。ラムウィンドスは深追いはせずに一度身を引くと、鋭い声で言った。


「仕事を放り投げて何をしている? 答え次第では火鍋の火にくべてやるぞ」

「これ、何を言ってもくべられますよね。俺はあなたの大切なひとを見失ったわけですか、らッ」


 言うなり、相手は身を翻す。逃すラムウィンドスではない。人の間をぱっと走り抜け、外へと出て行った相手をすかさず追う。ミルザも、やむなく「すみません、通ります」と叫びながら後を追った。

 灼熱の太陽光。

 砂埃の中、蹴り上げるラムウィンドスと間一髪でかわす相手。

 二人とも、動きが明らかに一般人ではない。ごろつきの喧嘩とはわけが違い、挙動のひとつひとつが否が応でもひと目を引き付ける。


(目立つー!! 騒ぎになるー!!)


 ざわっと空気が揺れている。人々は、遠巻きに二人の様子をうかがっていた。やり合う限り、いずれ自警団にも知らせが入り、横槍が入れられるはず。どうするつもりなんだ、とミルザが見守る先で、ラムウィンドスと少しばかり距離を取り、相手が声を上げた。


「どこかで会うことがあるかとは思っていましたが、お元気そうで何よりです!」


 言うなり、相手は剣を抜く。友好的な会話が始まる気配は、まったくなかった。ラムウィンドスはまだ剣を抜かない。だが、いざとなれば素手でもやり合う自信があるのだろう。足癖の悪さもさることながら、ラムウィンドスは体術が抜群に優れている。

 風に旅装のマントをなびかせ、ラムウィンドスは冷ややかな声で言った。


「はぐれた相手が見つからない場合は、焦って動き回っても仕方ない。少し、付き合え」


 ミルザは、いつもながらに簡潔すぎるその言葉を、頭の中で補完する。


(あのひとが誰かとはぐれた。迷子? 攫われた? それが、ラムウィンドス様は気に入らない。気に入らないというか……)


 激怒。ミルザの見立てに間違いがなければ、ラムウィンドスは怒っている。その結果としての「付き合え」とはつまり、探し人の方から見つけてもらえるまで、この場で私闘を続行すると……。

 最初から、目立つ騒ぎを起こす気で暴れているのだ。これは、他の損得をかなぐり捨て、瞬時にそこまでの判断を下すほどの事態ということらしい。

 それほどに、彼がはぐれたという相手は、ラムウィンドスにとって大切な存在。


「さすがです。相変わらずというか。あのひとのことになると、あなたは滅茶苦茶だ。冷静じゃない」

「冷静だよ。冷静に考えて、時間をかけない方法を選んでいる」


 挑発に対して、ラムウィンドスは顔を覆っていた布を片手で剥ぎ取り、地面に捨てた。

 あらわになる、白金色の髪。金色の、強い光を放つ瞳。

 周囲のざわめきの種類が変わる。「アスランディア……」という囁きがあちこちで起こり、「アスランディアはすでに滅びた」「いや、生き残りがいるんだ」「しかしあれではまるで」といくつもの声が響く。

 熱風が、彼の髪を嬲り、衆目にさらす。


 ――あれはまるで、滅びた王家の王。アスランディア。


 少なからぬ者がその結論に行き着いたそのとき、ラムウィンドスが動く。凄まじく速い。相手は、繰り出される蹴りを避けるだけで精一杯。そこに、素早く剣を抜いたラムウィンドスが容赦なく重い剣を振り下ろす。

 ガツン、と金属音が響いた。相手がバランスを崩して膝をつく。


「立て、エルドゥス。血を見ても止めないぞ」


 いかにも冷然とした声で告げて、ラムウィンドスは腰を落としているエルドゥスの腹を蹴り上げた。


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