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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【間章】 たとえ石が黄金を砕こうとも
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蒼穹に羽ばたく(2)

 華がある。

 遠目からでも、視界に入るだけで存在感がある。


(共もつけないで、自由に)


 回廊の正面から、颯爽と風を切るように早足で進んでくる長身の青年。

 白を基調とした立ち襟の長衣。宝石で装飾されたベルトに剣。頭に巻き付けたターバンから、白金色の髪がこぼれていた。

 端整な容貌は超然として表情らしい表情はなく、神話の太陽の男神とはかくやという風情。


「ほんとに似てるよね、総司令官殿は。叔父君のサイードに。よく見ると違うんだけど。なんだろうね」


 近づくまでの間、イグニスは同行のラスカリスに聞かせるでもなく呟く。続けて「表情が違うかな。サイードの方が生気がある」と。

 肩を並べていたラスカリスは、「どうでしょうねえ」とのんびりと答えた。


「総司令官殿、あれで笑うとすごい。太陽みたいに明るい」

「本気で言ってる? そんなこと言われたら笑わせたくなるじゃない」


 ちらっと視線をラスカリスに向けて嘯き、イグニスは前に向き直る。

 すぐそばまで接近していた、話題の人物の行く手の前にわざわざ立ちふさがり、足を止めさせた。


「こんにちは、ラムウィンドス殿。忙しそうだね」


 表情に変化はなく、無言。特徴的な金の双眸が、ひた、とイグニスを見据えた。

 さあっと風が吹いて、白金色の髪と翠の宝玉の耳飾りを揺らす。


「イグニス殿。あなたは適当なところで寝てください。食事も。倒れられたら困る」


 癖のない澄んだ声。格別に張り上げているわけでもないのに、よく響く。

 イグニスが見つめると、ラムウィンドスは伏し目がちにその視線に応えた。まつ毛が長く、優美な印象。決して女性的なわけではないが、造作は隙なく整っている。人の目をひきつける。


(笑うの? あなたが?)


 ラムウィンドスの表情を注意深くうかがいながら、イグニスは口を開いた。


「私の健康まで気にしてくれてありがとう。ところで以前から聞いてみたかったんだ、質問させて。ラムウィンドス殿がどうしても守りたい月のゼファード王とは、どんな人物なの?」


 金の瞳を軽く瞠って、ラムウィンドスはごくあっさりとした口調で言った。


「昔から、すべてにおいて、なにかと鈍い。いくら体を鍛えても身につかないんだ。絶望的に鈍くさい」

「うん、ラムウィンドス殿。それで質問に答えたつもりになっている? その答えで私が満足するとでも?」


 笑顔で食ってかかるイグニス。一方のラムウィンドスは一切の動揺も見せずに続けて言い切った。


「そのくせ、強気だ。恐れを知らないところがある。そういうところは、兄妹で似ている。何ものにも屈しない目をしていて、たとえ首を刎ねられることがあっても、その間際まで相手の目を見ているようなクソ度胸がある。剣を扱うこともなく、弱いくせに。だからこそ、あいつは、俺がこの手で守らなければならない」


 弱いから。弱いこそ。

 当たり前のように、他人の助けを必要とする。

 イグニスは眉をしかめ、目を細めた。


「それは私の知る数多の王たちとは少し違うようだ。黒鷲殿とも、我が君とも違う。弱いならなぜ強くなろうとしないのか、月の王は」


 声に苛立ちが滲む。

 それを受けて、ラムウィンドスはイグニスの目を見つめながら言葉を紡いだ。


「心が誰よりも強い。それで十分なんだ、ゼファードは。剣を振るうよりも、他にできることがある。もしゼファードが生き延びられるなら、俺は人生のいくらかの難題をあいつに割り振れる。あいつはそれを嫌がりながら全部解決する。……エスファンド先生のような図抜けた天才でも、あなたのように才知ある切れ者とも違う。だけど、あいつが悩みながらも何かを解決する姿が、俺にとっては不思議と頼もしい」


 目をそらさず、その話しぶりに耳を傾けるイグニスの前で。

 ラムウィンドスは、不意に唇に笑みを浮かべた。

 表情の印象が、がらりと変わる。

 華やかさに、色がつく。鮮やかに。


(なるほど、彼は太陽王家(アスランディア)……!)



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✼2024.9.13発売✼
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