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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【間章】 たとえ石が黄金を砕こうとも
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蒼穹に羽ばたく(1)

 砂漠は空が青すぎる、とイグニスが唐突にぼやいた。

 そして、猛烈な早口でまくしたてた。


「砂漠の民は、青が好きだよね。青の釉彩煉瓦で組まれた階段式神殿(ジグラット)を砂漠の真っ只中で見たときは何事かと思ったよ。目に沁みたなぁ。オアシスだと思って目指して進んだら、石の山なんだから。水が干上がって打ち捨てられたみたいだったよね。覚えてる? 民家は砂に沈んでいたのに、真っ青な聖塔と神殿だけが、青空の下、赤茶けた砂の大地に聳えていたんだ。あれはあれで胸が震える光景だったね。そして乾きは癒えなかった……」


 さらさらと、ペンを持つ手は休むことなく、紙に文字を書き付けている。

 何を書いているのかは、付き合いの長いラスカリスも、かなり気合を入れないと「解読」できない。二度手間過ぎるので、書くときからどうにか読める文字で書いてほしいのだが、イグニスの指は「持ち主の言うことなんか聞いた試しがないんだよ」と本人が自信満々に言う程度に、思い通りにはならないらしい。


(なんでだよ)


 何度も言っているのだが、改善の兆しはなく、もう考えないことにしている。

 ラスカリスは「ひでぇな」と呟きながら、イグニスが書き終えた書類を手にした。そのついでのように言った。


「しかし、隊商都市(マズバル)草原(アルファティーマ)をひきつけ、帝国(ローレンシア)へ向かわせずに叩けるだけ叩くのはわかるが、帝国をこんなに空けていていいものか。陛下が潰れてないといいけど。エルドゥス王子も月の姫と旅に出てしまったし」

「我が君はね、潰れたらそれまでだよ。何言ってんだよ。私がいないくらい、自分でどうにかできなきゃ皇帝なんか名乗ってる場合じゃないだろ!?」


 イグニスは弾かれたように声を張り上げ、手荒な仕草でペンを投げ出す。

 その勢いのまま、ガタガタと音を立てて椅子を押しのけて立ち上がった。常に無く、動作に苛立ちの気配が濃厚に漂っている。


「仕事は」

「私にも息抜きというものが必要だと思わないか! 少し出てくる!! 黒鷲は私を便利に使いすぎだろ。使うべきはエスファンド導師じゃないのか!」

「先生は、月の暦を太陽の暦に置き換える作業とやらに着手していて、ものすごく忙しいらしい。総司令官殿の出立に間に合わせるとか。天才って恐ろしいよな。まず、なんの話をしているのかも俺にはさっぱりわからない。ああ、ちなみに先生は夜はきちんとぶどう酒を飲んで、しっかり寝ているらしい」

「その情報はいま、この状況の私に対して必要だったか!?」


 ラスカリスの淡々とした説明に対し、イグニスは血走った目で「私だって今日は寝てやる!」と言い捨てて、足音も高く部屋を出て行った。

 その背を見送りながら、ラスカリスは「荒れてるなぁ……」と呟きをもらし、置いていかれている場合ではないと、すばやく後を追った。


 現在のイグニスは、隊商都市の長・黒鷲アルザイの命を受けて対アルファティーマ及び都市再興計画に尽力している。その事実は王宮内で広く知れたことであるが、受け入れられているとは別の話だ。

 己の弁舌に絶大な自信を持ち、喧嘩っ早く、敵を作ること甚だしい性格は、祖国でも異国でもまったく変わることがない。

 護衛官として、ラスカリスはそのそばを離れることはできないのだった。




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