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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第六部】 征服されざる太陽
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月を呼んだ日(4)――その純粋さにおいて

(この二人は、王宮を二分するほどの喧嘩をしていたはずなんやけど)


 剣で打ち合った後。

 ごく普通に淡々と会話をはじめたアルザイとラムウィンドスを目の当たりにし、アーネストは一人、まったく納得いかぬ顔で盃を握りしめていた。


 エスファンドの私室にて。

 ラムウィンドスの棘を無事に抜いた流れで、完全非公式の宴が始まった。準備だけさせた上で人払いをし、全員絨毯に座って普通に飲み食いをしている。

 草原(どこぞ)の王子であるはずのエルドゥスなど、酒姫(サーキィ)よろしく酌までしている。


(待て。お前はそれでいいのか)


 そもそも、この緊迫した空気の中、いきなり主君に切りかかったラムウィンドスが叛逆罪に問われていないのがすでにおかしい。

 自分のようなよそ者やエルドゥスのような敵国人がアルザイと酒を酌み交わしているのもおかしい。


(つっこみどころが多すぎて、どこから食いついていいのかさっぱりわからへん)


 絶対に取りこぼす。優先順位をつけてつっこんでいかないと、逃してはいけない部分を聞きそびれてしまう。

 考えに考え抜いて。


「姫様どないするん」


 これ以上ない単純な質問が口をついて出てしまった。

 アルザイとラムウィンドスが同時に顔を向けてくる。

 目が。


(目が……なんか言うてるんやけど……嘘やろ)


 エルドゥスとエスファンドまでも自分を見ているのも感じる。痛いほどに感じる。

 その空気に耐え切れず、アーネストは顔をそむける。頭が真っ白だった。


(実際、この男(ラムウィンドス)から(めい)が下るのは、ありやと思っとった。未だにオレの上官のつもりやからな。話す隙があらば、必ず、言ってくるはずやと)


 ――姫を連れて逃げろ


 エルドゥスに(そそのか)されるまでもない。言われる前から知っていた。

 

(「自分でどうにかせいや」って言いたいのを堪えて、オレは拝命してしまう。側にいることができないこの男に代わり、「命に代えて姫さまをお守りします」と)


 セリスと、ラムウィンドス。

 二人は違うものを見ているから、どれほど愛し合っていてさえ、呆気なく別れを選択する。三年前と同じように。

 そこにどれほどの痛みが伴っているのか、誰にも見せようともせずに。痛くないはずがないのに、ラムウィンドスも、セリスも。二人とも。

 血を流している心の怪我を、人の目から隠して自分だけのものにしてしまう。


(そこまでは、まあわかるんやけどな。問題は、黒鷲(オッサン)や)


 初対面からどうにも折り合いが悪く、再会しても特に距離が縮まることもなく、良く思われていないことを、アーネストは知っている。

 というか、覚えられているだけマシな部類。

 認められたいわけではないが、眼中にあるとはイマイチ思えないくらい、本来は遠い相手のはず。

 その黒鷲までが、強烈な眼光を放って、何か脅しをくれている。何を。


(何を?)


 思い当たるものを、まさかと打ち消す。

 結果、嘘やろ以外の感想が浮かばない。

 当の黒鷲まで自分に「姫君(セリス)を攫ってどこかへ行ってしまえ」などと言うはずがないのだが。



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