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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第六部】 征服されざる太陽
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月を呼んだ日(2)――耳飾りの謂れ

「その耳飾り、綺麗だな」


 アーネストの刃先が黒髪をかすめて、少し切り飛ばしたというのに、エルドゥスは動じずに微笑みかけてくる。

 その余裕に、得体の知れなさが募った。


(この王子様、まだ何か隠してるんちゃう……!?)


 出し惜しみしているようには見えないが、それでも。

 形勢としては押しているはずなのに、勝ちが見えてこない。

 危険。

 戦いの勘が告げる。

 エルドゥスは、負ける男ではない。

 いつか牙を剥く、草原の蒼き狼。


「この耳飾りは……、姫さまがっ」


 打ち込まれた剣を受け止めて、間近で睨み合いながらアーネストが言うと、エルドゥスはわざとらしく目を見開いた。


「本当に?」

「なんや」


 思わせぶりな、とアーネストは目を眇める。

 エルドゥスは、一度身を引いて距離を置いてから、面白そうに言って来た。


「草原では、持ち運びしやすいように財産を貴金属として身につける女が多い。だから、結婚のときには男の側から女に高価な耳飾りを送る習慣がある」

「……で!?」


 エルドゥスは、明らかに、爆笑一歩手前の満面の笑みを浮かべて、アーネストの様子を伺っている。


(性悪やな~~~~っ。うちの姫様が! そんなに後先考えてるわけないやろっ)


 あの冷淡でぶっきらぼうで表情の乏しい(ラムウィンドス)の腕に好んで飛び込んでいく、向こう見ずな姫君なのだ。

 いちいち行為の言われや背景を気にする繊細さなどあるわけがない。

 ほとんど恨み言でしかない人物評を心の中でまくしたてて、へっ、とアーネストは薄く笑った。


「残念やったな。あの人ことは、深読みするだけ無駄や」

「それ、有体(ありてい)に言うと、姫君は底が浅いって言ってる?」

「アホ。自分の仕える相手にそないなこと言う従者がどこにおるんじゃ」


 エルドゥスが剣先をアーネストに向けて片目を瞑った。


「そこに」

「しばくぞ、ガキ。って何べん言わせ……」


 煽りはいい加減にしろとばかりに受けて立ったアーネストだが、不意にぶつりと言葉を途切れさせた。


(男が耳飾りを送ると、求婚?)


 最近、そんな話を聞いた。

 悪運の強さと大雑把さだけで生きているようなアーネストの仕えるべき姫君が。

 目を離した隙に、耳を貫かれていた。

 草原の風習を知る男に。

 (しるし)のように。


「それ、ヤバいんちゃうの……?」

「何が?」


 さすがに様子がおかしいと、エルドゥスが真顔になって尋ねてくる。


「だから……、男からの耳飾りを受け取ったら……つまり」


 ()()()()()()という意味では。

 アーネストの言葉にしなかった問いに、エルドゥスは答えようと口を開く。

 ちょうどそのとき「いたいたー」と、場違いなまでにのどかな声が響き渡った。


          



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