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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第六部】 征服されざる太陽
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夢幻の銀(前編)

 銀髪が、確かに視界の隅をかすめた。

 すれ違うひととぶつかりそうになりながら、夢中で追いかけて、見失って、立ち止まる。

 諦めかけたそのときに、ふっとまた視界のぎりぎりのところを通り過ぎて行く。


 遊ばれている。


 そう思ってから、即座に否定する。

 遊ぶほど暇じゃないはず。

 試している?

 それも違う。

 セリスが「どの程度」かなんて(ナサニエル)はさして興味はないだろうし、究極的にはどうでもいいはずだ。


(思い知らされる)


 自分は、愛されている。

 何者でもないくせに、守られて、大切にされてきた。

 ゼファードも。アーネストも。アルザイも。

 太陽のアスランディアであるあの人にも。


 一歩外に出ればどうだ。

 心ある生き物として扱われず、ただの女として殴られ犯されかけた。

 セリスを知らない人間にとって、セリスはなんの価値もない。

 悪意は猛威となって襲い掛かって来る。


 それが、ひとの生きる世界。

 知らなかったのは、世界が綺麗だと信じていられたのは、たまたま恵まれていただけだ。

 今ならはっきりわかる。離宮で育てられた日々もまた、自分には決して無駄ではなかった。

 激しい憎しみや暴力から遠ざけられ、綺麗なものだけをその瞳に映して生きるよう、取り計らわれてきた。


(ナサニエルは、血と死の匂いを運んでくるひとだ)


 予感がする。

 彼は、今まで知る他の誰とも違う世界を歩いているひとなのではないかと。

 あの目がこれまで何を見てきて、この先の未来に何を描いているのかはわからない。

 だけどきっと、あのひともまた。

 自分の選んだ道を進んで行く。


 何故かわからないけれど、彼はその道行きに、セリスを誘っている。

 孤高の背をさらしながら、少しだけ振り返って見ている。

 共に来い、と。

 あの銀の髪、一目見たときから、強く引っかかっていた。


(本当に、遠縁で、あれほどの色が出るんだろうか……)


 あのひとは、もしかしたら、もっとずっと近い血をもっているんじゃないだろうか。

 視界を、銀の髪が過ぎて行った。

 ハッと息を飲んで、走り出す。王宮の廊下。迷惑そうに見て来る人々。だけど構っていられない。


(今度こそ!)


 ナサニエルの後ろ姿。さっと身を翻して、衛兵が左右に立つ間を抜けて扉のない大きな部屋に入って行く。

 後を追おうと踏み出したセリスの前に、槍が二本交差して渡された。


「なんだお前」「この先はだめだ」


 セリスは頭に巻き付けていた布を手早く外して、銀の髪をあらわにした。


「わたしです!!」


 名乗ることもなく。

 怪訝そうにしている衛兵二人に対し、再度「わたしですよ、通ります」と涼やかな声で告げる。

 いわゆる、はったりである。


 だが、ここぞとばかりにさらされた月の王家の色に、衛兵たちは「要人。しかも本来なら顔を見ただけで誰だかわかる程度の」という圧におされて「中に確認を」とついもごもごと言ってしまった。

 少年のように表情を作ったセリスは、そっけなく「必要ない」と言い切って間をすり抜けた。


          



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