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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第五部】 隊商都市の明けない夜(後編)
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痛みを伴う口づけ(1)

 マズバルの夜を彩る楽の音が、止んでいる。

 悲鳴や怒号が風に乗って、細切れに届く。セリスとアーネストの行く道は静かであったが、都市のどこかには、確実に騒乱の気配がある。

 いまこの瞬間にも血を流し、命を落としている者がいるのは間違いない。


(アーネストはわたしの願いを拒まない。それを知っていて、私はこのひとに同行を願ってしまった)


 セリスの胸は軋みを上げている。けれどその痛みを、アーネストに打ち明けることなどできない。

 今さら迷いは吐けない。



 ――門が閉まっていても、外壁の一部にひと一人分通れるところがある、と聞いている。


 ロスタムに対し、「アルスから何か聞いていないか」と確認すると、そのような情報が出てきた。


 ――そんな穴に、誰も気づかへんの?


 ――普段人気のないところで、しかも穴があいているわけではなく、日干し煉瓦を巧妙に組み替えて外せるようになっているらしい。さすがに、大人数の逃走経路としては小さすぎるとは思うけど……。アルスが手引する相手が少数なら、そこを目指すかもしれない。位置的には市場や神殿群から走れば行ける距離なので、場所は悪くない。


(もともと壁の脆いところという意味では、逃走を手助けする人(アルス様)が先回りして、いっそ破壊して待っているということも考えられる……?)


 そうは言っても、不確定の情報。都市の防衛にあたっているマズバル兵に呼びかけることはできない。

 ならば自分たちで確かめるしかないが、もし「当たり」であった場合、手練れたちを相手どらなければならない危険性もある。


 ――確認する意味はあると思う。だけど、絶対に無理はしない。ハズレならそれでいいし、当たりでもこちらが気取られなければ交戦にはならない。もし見つかってしまったら、なんとか時間稼ぎをする。ロスタムは、ラムウィンドスにこの話を知らせて。その後の判断はラムウィンドスに任せる。


 ――いまはひとりでも惜しいのでは。俺も姫と行きますが。


 ――大丈夫。わたしとアーネストで行きます。いずれにせよ、ラムウィンドスやアルザイ様と連絡を取る必要はあるんです。わたしの無事を伝える意味でも。


 納得いかない顔をしているロスタムに、セリスは強く言い聞かせて別行動を促した。


(もしそこにアルス様がいた場合、親子のような結びつきをもつロスタムには酷なことになるかもしれない。……それで言えば、アルザイ様もラムウィンドスも。彼らはアルス様を信用している。あのひとを疑えるのは、先入観のほとんど無いわたしを置いて他にいないはず。そして、戦って切り伏せることができるのは……)


 アーネスト。

 技量で言えば、どちらが上なのかセリスにもわからない。だが、他に手は無い。

 その覚悟のもとに、二人で襲撃者たちの逃走経路に先回りする道を行く。





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