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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第五部】 隊商都市の明けない夜(後編)
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戦場で重なり合う、出会いと(2)

「小僧! 裏切ったのか!!」


 東国訛りの怒号がとび、それに対して「それ、今言うことかな。隊を出た時点で明らかでしょ」と少年の声が答えた。

 素早く男のもとに踏み込んで、ナイフでその首をかききったのは黒髪の少年。

 辺り一帯で燃え盛り、空へと伸びる炎の明るさの中、その顔は誰の目にもはっきりと見えた。

 ラムウィンドスの前にたどりつくと、にこりともせず言う。


「ゼファード王配下のロスタムと申します。セリス様の指示により、補佐に入ります」


 砂漠の者が身に着ける、日除けの布をすべて取り払って、素顔をさらしていた。それが、マズバル兵の動揺を生んでいるのだった。 

 砂漠の黒鷲、アルザイに生き写しと言って良い。顔も声もすべてが似すぎている。血の繋がりは、誰の目にも明らかであった。

 一方で、敵である隊商の者たちは、さほど彼を気にせず、勢いを衰えさせることなく剣を振るっている。


 ラムウィンドスもロスタムも、ゆっくり話す間などなく戦闘に身を投じる。

 はからずも背をあわせる態勢になったが、二人ともに相手に背を預けることを躊躇わなかった。

 眼前の敵に切りかかりながら、背中越しに言葉を交わす。


「素顔をさらしておけば、敵に間違われる恐れはないと、セリス様が。あるものは使えと」

「『鷲の少年』か」

「姫はアーネストと市街に。アルスを追っています」

「君は、アルスを……」


 ラムウィンドスの呟きに滲んだいくつもの感情に、ロスタムは飄々と答えた。


「知っています。『私は君の父ではないので、名前で呼べばいい』と。だから、アルス。育ての親ってやつですね。なんですけど、姫様があのひとを疑うのもわかります。変な人だし。サイードと仲良いというのも、いかにもありえそうだし」


 声の平坦さはラムウィンドスをも戸惑わせるほどに、そっけない。常に熱情を帯びている砂漠の王を知っているだけに、異質さが際立つ。

 会話の合間に敵を屠りつつ、ラムウィンドスが確認するように言った。


「アルザイ様には、名乗りをあげていないな」

「『銀髪に弱い男』ですね。姿は見ました」


 いささかの揺らぎもみせず、つまらなさそうにロスタムは答えた。

 迫って来た男の一人を切り伏せて、ラムウィンドスは場違いな笑みを浮かべた。


「的確だ。母御は(さと)い女性とお見受けする」


 戦場に似合わぬ、ラムウィンドスの明るい声。

 ロスタムは一瞬だけ不機嫌そうに眉を寄せた。


「……セリス様は良い銀髪ですね」

 

 話し終える間もなく、劣勢となったマズバル兵のもとへ駈け込んで、手間取っていた旅装束の男の首筋にナイフを叩き込む。

 食い入るように見つめる兵の視線には答えずに、身を返して次の敵へと向かっていく。 

 返り血を浴びて、その姿は見るも凄惨なものとなりつつあった。

 ラムウィンドスもまた剣をふるいつつ、「そうだな」とロスタムに向かって言った。


「だからアルザイ様は、あの方に手を出せないんだろう」 


 もともとの無表情をさらに硬化させて、ロスタムは固い声で言った。


「余裕ぶってますけど、今姫様のそばにいるのはあなたじゃない。姫様に懸想している男だ。あの、しゃべりの変な奴」

「知っている」


 短く返しつつ、ラムウィンドスは敵の動きが変わったのを察して門を見た。

 人影が二つ。


「ここはいい。市街へ出た者を追え!」


 相手を見定め、その場に立っていた部下へ指示を飛ばす。

 自分以外がここに留まっても、意味がないと理解したためだ。


「残りは俺が引き受ける」


 ロスタムが言葉を引き継ぎ、逃走をはかろうとしていた敵にナイフを投擲する。

 その場に立っている敵は、すでに二、三人。ロスタム一人で、十分戦えるとの判断だった。

 一方のラムウィンドスは、門から姿を現した二人の人影をじっと見ていた。

 その場にとどまっていたラスカリスが、小声で「王子です」と言う。ラムウィンドスは了解のしるしに小さく頷いた。

 

 

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