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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第五部】 隊商都市の明けない夜(後編)
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劇場の演者(前編)

(黒鷲は、どこへ行ったのよ!?)


 王宮で開かれる宴に参加すべく、女官の助けを借りて着飾り、広間に向かったライアであったが、肝心の王は姿を現していなかった。

 確かに、先に向かえと言われた覚えはあるが、まさか王がいないなんて。

 重臣の覚えが全然めでたくない中、急ごしらえの「執政官」の肩書を押し付けられ、女一人で自分はいったいどうすればいいのかと。

 腹ただしい……裏に、心細いという本音を認めたくなくて、ライアは落ち着こうと深呼吸をする。


 ──この場にただ一人の「女」であると考えるから、思考が乱されるのだ。


 集められた客人は十五名。いずれも東国人。言葉はおそらく、砂漠の通用語でいいだろう。

 迎えるマズバル家臣団は入れ代わり立ち代わりしているが、二十名ほどか。皆、ライアのことは見えていないかのようにきれいに無視している。

 ただ、場から追い立てられるようなことはない。

 おそらく、「女性」であることを期待されているから。酒を注ぐ手として見目の良い女が歩き回ることはアリなのだろう。


(家臣団の一人として会話に耳を傾けるのならば、初めから「女」として振舞うべきではない。だけど、警戒されない「女」であった方が、男たちでは聞き出せない情報が聞けるのでは……。これだけ「男」がいるのならば、自分に期待されているのは間違いなく後者……!)


 アスランディア神殿のアルスという神官にも、アルザイにもそれをはっきりと言われている。

 色仕掛け。駆け引き。出来ないなんて、言えない。

 アーネストには死にたくなるくらい叱り飛ばされたけれど。


 物珍しそうに見ている東国人に、ライアはにこりと微笑んでみた。

 警戒心を笑みで溶かして。寄り添って、話を聞くのだ。役に立つことを、示さねば。

 広間に踏み出す。


(セリスなら)


 ふと、考える。

 少年と少女の姿を持つ「セリス」であれば、こんな時どのように振舞うのだろうか、と。

 悩み、迷いながら歩くライアの横を、高い足音を鳴らして颯爽と通り過ぎた男がいた。

 さらりとした赤毛がなびく。

 追い越しざまに、ちらりと視線をくれた。空を嵌めこんだような紺碧の瞳。

 目が合ったのは、一瞬。

 彼は、まるでこの場の主役のように進み出て、朗らかに言った。


「ローレンシアの『女王のしもべ』イグニスと申します。今日は我が主に代わり、皆さまの労をねぎらうべく参上いたしました。酒も食事も十分に用意しております。旅の疲れを癒し、心行くまでお寛ぎください」

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