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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【間章】 月にて君を想う
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退廃の国の王と姫──月──(1)

 近頃、王宮の掃除が行き届いていない。


 廊下の花瓶の花がしおれるまで取り替えられないことにも、慣れて来た。

 何しろ、人員はかなり削減している。それがこういうところに出て来るのだなと、いちいち興味深く見守っている。

 そのうち、天井や床の四隅に蜘蛛が巣を張り、露台に落ち葉が溜まり、寝台の布が交換されなくなるのではないだろうか。

 国庫も空に近い。

 仕事を夜まで持ち越せば、灯火が勿体ないと口出される日も来るかもしれない。


(滅びゆく国か)


 ゼファードは、生活の変化を概ね受け入れていた。



 爛熟の時を経て、今まさに腐り落ちていく退廃の国、(イクストゥーラ)

 食えば腹を下しそうな腐りかけの実だというのに、どうしても食べてみたいらしい周辺国に常に動向を見張られている。

 舌先三寸、首の皮一枚で逃げ切る外交をしつつも、武力で争うのは相手がどこの国であれ、無謀。

 そう見限っているだけに、ではどこにどんな形で負ければ虐殺や略奪を最小限に食い止められるのかを考える段階になっている。


 ゼファードが「優しい滅亡」のあてにしているのは、血の繋がらない()()()()()


 とはいえ、彼らが統治する砂漠の都市も、歴史は浅い。まだまだ手がけねばならぬ事業は多く、野盗討伐などには特に力を注いでいるとはいうが、軍事力自体は周辺国に比べて決して高くはないはずだ。

 今は「砂漠が月の国を落とす」と周辺国に圧力をかけることで、均衡を保とうとしてくれているようだが、いざ隊商都市(マズバル)から軍を出してしまえば都市が手薄になり、新興の勢力であるアルファティーマに攻め込まれるのは予測の範囲だ。

 いまはまだ、動くに動けないのが、実情と考えられる。


(さて。月を滅ぼしにくるのは、何処の戦士たちか)


 ほとんど投げやりに考えるのは、さして未練がないせい。

 城の掃除は手が抜かれていても、ゼファード自身は自室を整理整頓し、死ぬ準備はできている。

 国の滅亡に道連れにするのは忍びなかった妹姫(セリス)も、無事に出奔させた。

 もう急いでやることは見当たらず、心残りもない。


 ただし、本を読みかけで終わらないように、夜になると急いで読み進めるのが日課だった。一晩で読み切れず、いざ死ぬという段になって「あの続きを読むまで死ねない」という気持ちになったら大変なのである。

 だから、読書の邪魔はしないでほしい。

 くれぐれもそこは尊重してほしい。


 ゼファードの寝室に昼となく夜となく出入りできる()()には、それだけ強くお願いしてある。

 しかし、あまり効果はない。

 その日も結局「入るわよー」という彼女の登場によって、読書は中断を余儀なくされることとなった。

 その容姿の特徴は、月の王家の特徴である。銀の髪。

 退廃の国に相応しい、爛れた兄妹婚の相手。対外的には間もなくゼファード王と結婚することになっているとされる「セリス姫」だ。

 その、影。


 本物がこの国を去った後に、この国が滅びを迎えるまでこの場でセリス役をつとめる王家縁の女性。

 彼女は、ひとの話をまったく聞かない。本当に全然聞かない。

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