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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第四部】 隊商都市の明けない夜(前編)
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秘められぬ想い(1)

 陽が落ちるにつれ、篝火の輝きが増す。

 半円形の野外劇場を余さず照らし出すべく焚かれた炎から、いくつもの火の粉が舞い上がり、ときに風に吹かれて宴をはじめた男たちの間を流れてゆく。


 少年は三々五々はじまった酒食の集まりに混ざることなく、劇場内を歩いていた。

 歩みは存外に早く、細く束ねた長い黒髪が時折背ではねる。


(出口は一つ。見張りがついて人の出入りを見ている)


 鉢の底にあたる地面が主たる宴会場となっているが、客席の傾斜は緩く、そちらで飲み食いをしている者もいる。

 広い舞台部分には荷を積んだラクダが並び、客席に面した神殿のような石造りの門や円柱の向こう側、奥はすべて土嚢が積まれて塞がれているようだ。野盗の侵入を防ぐためというが、隊商の動きを制限したいというのが本音だろう。


(かなり警戒しているな)


 隊商の長であるセキは、マズバルの司令官に連れ出されて長いこと戻って来ない。

 着いて早々の呼びつけであったが、マズバルの君主が召したのだとすれば、そのままそちらで宴席に招かれている可能性もあるだろう。隊商にとっての長は重要人物であるが、長旅には不慮の事態も想定されており、長の代わりを務められる者も数人いる。残された者に大きな混乱はない。


 腰を落ち着けることなく、皆の間を歩く少年を見止めて、声をかける男がいる。

 少年はそれに愛想よく笑って答えつつも、まるでよそに呼ばれている途中であるかのようなそぶりで足早にその場を去った。

 体を休めたい気持ちはあったが、酒は口にしたくない。

 人が多い場所で、不意に因縁をつけられて喧嘩に持ち込まれるのも分が悪い。

 味方がいないわけではない。

 とはいえ、今は誰も寄せ付けたくない。


(第一王子、並びに第二王子に与する連中は、マズバル(ここ)で必ず、俺に仕掛けて来る)


 頬に炎の煌きを受ける。

 篝火は朝まで焚かれて人々の動きを照らし出すだろう。

 陽が上り、火が絶やされるその時まで、何事もなく過ごせるとはどうしても思えなかった。

 それは、常に肌を刺すように感じる視線のせい。

 どこかから、見ている者がいる。


 * * *

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