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封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる  作者: 有沢真尋
【第一部】 離宮の姫
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襲撃は夜明けとともに(前編)

 おそらく世の姫君は、夜も明けきらぬ早朝に、無粋な男に叩き起こされることはないに違いない。


 この日の朝の出来事を、後にセリスがゼファードに話したところ「王宮がクーデターを起こした郎党に襲撃を受けて、逃がすために衛兵が起こしにくる。はたまた部屋まで突破してきた侵入者に、剣をつきつけられる。そういった緊急事態でも起きない限りは、まずないだろうね」とのことだったので、この件に関してのセリスの認識はそれほどずれてはいなかった。

 このときは、そのどちらの状況でもなかった。


 * * * 


「ラムウィンドスだ。王子から姫の身辺を一任されている。そこを退くように」


 引越し二日目、早朝。

 セリスの部屋の前を守る二人の女兵士に向かって、当然の権利のように主張する男が一人。全軍の総司令官、若くして縦社会軍部の中の最高権力者の地位にある青年。


「まだ姫はお休みになられております。お引取り願います」

「せめて日が高くなってから」


 兵士たちはやんわりと押し返そうとしたが、眼鏡の奥から鋭い眼光を浴びせかけられて、押し黙ることとなった。ラムウィンドスは感情の読み取れない、わずかに掠れる声で言った。


「日が高くなるまで寝ているアホウがどこにいる」

「ですが、今はまだ、時間が」

「何が問題なのかよくわからない。裏庭ではすでに雄鶏が鳴いていたぞ。朝だろ」


 ラムウィンドスの「よくわからない」はクセモノなんだよ、とゼファードは後にしみじみと語る。あれはわかっていないふりではなく、本気でわかっていないことの方が多いからね、と。

 このとき対応にあたった女兵士二人は、無論そこまで総司令官の人となりを知らない。

 これまで直接話したこともない上官の意図、あるいは常識をはかりかねていた。

 そこに、淡く発光するかのような蜜色の髪を風になびかせた第二師団団長であるアーネストが、軽やかに廊下を走り抜けて現れた。


「総長、準備できとるで」

「こちらは少し手まどっていてる。姫は寝ているそうだ」


 軽く頷いてこたえながら、ラムウィンドスは再び女兵士に向き直る。


「このあと用事が控えているので、急いでいる」

「お通しするわけにはいきません」

「何故だ」


 常識的に考えればわかるだろう。


 おそらく女兵士たちはそろって同じことを考えていたが、言っても通じない恐れがあったので、賢明にも口をつぐんだ。意外にも、助けを出したのはアーネストだった。


「総長……。オレ思うんやけど、寝ている女の子の部屋に乗り込むっちゅうのは……ちょっとまずいんやないかなぁ」

「何故だ」


 アーネストは、一度口を閉ざした。

 その人離れした美貌にどことなく困ったような苦い表情を浮かべ、考えをまとめながらのように訥々と言った。


「オレ、よく団の奴らに寝首かかれそうになるんやけど、そのたびに半殺しにしてしまうやろ。姫さまかて、いきなり総長が現れたら本気でかかってきかねないやん」

「問題ない。応戦する」


 即座にそう返したあと、ラムウィンドスは笑みらしいものを口の端に浮かべた。


「俺があんなガキに負けるわけがない」


 

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